2009/09/11(金)小説「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」感想
今では超有名作家となった西尾維新のデビュー作です。メフィス賞受賞の推理小説。西尾氏の他作はいくつか読んでますが、推理小説がデビュー作だとは知りませんでした。
非常に安定しつつ西尾氏独特の文章と世界観です。使っている語彙やコンピューター関連の知識の両方をもっている当時20歳というのはちょっと驚きです。Wikipediaによると「立命館大学政策科学部中退」だそうで理系かあ。ミステリィと知らずに読んだので途中まで「この物語はなんなんだ?」と思ったのですが、殺人が起こって「ああやっとミステリィ」だったのかと。その辺からどんどん引き込まれました。
対比論
天才がたくさん出てくる小説です。森博嗣氏のデビュー作(同じくメフィスト賞)「すべてがFになる」も天才が登場する物語でしたが、この小説は「天才たち」が登場する物語です。どちらも理工学要素がたぶんに入っており、森氏デビューからだいぶ経った2000年当時でも理工学要素ミステリィが好まれるというのは面白いなあと感じます。理工系の知識がない人には、ああいうギミックは2009年現在でも楽しいのでしょうか。不思議です。
森氏は「天才」を演出するため「理知的」という部分と「とても理工的なギミック」を大変重視していますが、西尾氏の天才の演出は「知恵比べ」そして「遊び心」で演出しています。途中まで「なんでこんなんがメフィスト賞で話題になるんだ?」と思ったのですが、2重~3重に組まれたギミックが明かされつつある終盤で「なるほど」と納得します。
しかしあえて否定的な見方をすれば、理工的ミステリィは森氏がパイオニアであって2番煎じであるだけ「すべてがFになる」ほどのインパクトはありません。メイントリックはともかく、最初の密室トリック(地震とペンキ)などは読んだ瞬間に分かってしまったぐらいで稚拙な印象は拭えません。いわゆる科学的思考ができる人には、すべての材料が出れば(考えれば)理論的に分かってしまうトリックだらけであるので、そこが魅力である一方、そこが欠点でもあります。だから西尾氏は最後の材料を解決偏の寸前まで提出しないし、証言や事実の真偽製についてはあまり深く触れていません。
つまり森氏のトリックは材料は非常に明確で推理可能だけども難しいのに対し、西尾氏のトリックは材料を曖昧にすることで推理可能にさせない感じになっています。推理させない構成というのを読者に気付かせない巧みな文章力にはやはり唸ってしまいます。
西尾氏の強み
他作を読んで感じるのは西尾氏はセカイ系である(もしくは意図的にセカイ系の物語を作ることができる)ということで、そこにあるのは本作ならば「戯言」に代表される主人公の稚拙さです。実のところ、西尾氏はここがもっとも優れているところであると感じているので、本作ではさほどそこが強調されていないのが逆に面白く感じてしまいました。逆にこんな構成力があったんだと知りました。
サヴァン症候群という言葉を使うところからも、セカイ系について洞察し、思考し、心理的な面も普段からいろいろ思考しているタイプの人間なのでしょう。さわりは普通だけど、何を考えているんだろうって感じかもしれませんね。
ミステリィや西尾氏が嫌いじゃなければ、本作は読んで損はないと思います。
2009/08/18(火)小説「アクセル・ワールド」の感想
電撃文庫の2009年大賞受賞作ということで衝動買いしました。
ニューロンリンカーという脳直結型のインターフェイスがある近未来という設定で、仮想現実の世界にそのまま入ることもできるというちょっとSFな世界観。それでいて学園モノ。SF的にもニューロンリンカーっていう設定も微妙だし見た目コンプレックスでダメダメの主人公とか、どうすんだよとか思いながら読み進めると、バーストリンクという仮想世界で「加速」できるソフトが出てきたところで面白くなってきます。
決定的にこれが面白いと思ったのはバーストリンクでやることが格ゲーというはちゃめちゃな設定が明かされたとき。もう、バカバカしさが大好きになりました(笑)
いくつか話題になっている小説(ラノベ)も読んでますが、それらに比べて地の文章がとても安定しています。導入の辺は「ちょっと」という部分もありますが、非常に安定した描写です。ハルヒのように飛びぬけた設定(世界観)はないものの、この安定した描写がベタだけどありがちな物語展開と、バーストリンクという仮想空間で格ゲーというアホくさい設定を支えていて実に楽しいものに仕上がっています。
やっぱり文章うまい人の本の方が、読んでていいなあ。次巻も間違えなく買います。
2008/06/08(日)小説「'文学少女'と死にたがりの道化」感想
「なにか面白い小説ないですか?」って聞いたら進められたので読んでみました。普通のラノベかなーと思っていたら、気付いたらミステリィでした。ラノベ系ミステリィって感じですかね。ですので、ちょっと気を抜いて読むと理解し損ねるかも。
太宰治大プッシュなんでよっぽど好きなのかなーと思ったのですが、このために調べて好きになったみたいです。好きだなーってのはよく伝わってきます。
面白かったです。ミステリィ調ですけど間違ってもミステリィと思って読まない方がいいです。ミステリィと思って読むとたぶんがっかりするので。そういう意味で、ミステリィと思わせない作りになっていてうまいなーと思いました。欲を言えば遠野先輩のキャラクター性がもう一押し欲しい感じしますけど、面白かったです。話の作りがうまいですね。シリーズらしいので、第2話以降はどう見せるのか気になるところですね。
2008/01/06(日)小説「ナルキッソス サイドストーリー」感想
2007/07/22(日)ゲーム「ナルキッソス2」感想
ナルキッソス2は、元ねこねこソフトのエライヒト片岡とも氏のサークルステージ☆ななで無償配布されているノベルゲームです。
プレイ感想
元々、知り合いの方が音楽で参加しているということから知ってプレイしてみました。プレイ時間2~3時間ってことでしたので、ちょっとプレイするには良いかなと。 結局5~6時間ぐらいかかったのはいつもどおりでしたが(苦笑)*1
感想としては一言で表すと片岡とも氏色でした。銀色第1章とかと同じく「生と死」を本質的テーマとして、 死に逝くものを描いています。死を目前としたとき人は何を感じるのか、そこを深く掘り下げています。
ゲーム中、非常に多くの投げかけが行われるのですが、それに対する答えは用意されていません。実際問題、どれが正解とは片付けられないものがあり、煮え切らないと言えばそれは正しいのかもしれませんが、でもそこでもないところに本作のテーマはあるような気がします。
プレイしていると、とも氏は実際に死に接したことがあるのではないのかと思えて仕方ありません。少なくとも死に対して深く考えたことがないと、あれだけの言葉は出てこないと思うのです。そんなとも氏が結局何を一番描きたかったのかと考えると、死に逝く者が苦悩の末の辿り着いく場所とその瞬間(瞬間)の大切さなんじゃないかと思います。
気になったところ、細かいこと、キャスト
- エレベーターの音(SE)が電子レンジの音らしく、どうにも気になって仕方なかった。
- フリーで公開できてしまうことに驚きを感じてしまうと共に、一般流通に乗らないことの限界もあるのだなぁーと。
- 背景紙芝居という使い方もアリだなぁーと。
CAST
人物 | キャスト |
---|---|
姫子 | 柳瀬なつみ |
千尋 | 後藤邑子 |
優花 | 岩居由希子 |
セツミ | 綾川りの |
ママ | 田中凉子 |
女の子 | 能登麻美子 |
どうにも岩居さんが(声を覚えているので)気になって気になって。
片岡ともさんについて
生死のテーマもそうなんですが、真摯といいますか愚直といいますか、銀色もそうでしたが好きです。ねこねこ解散にしてもそうなのでしょうけど、いろいろ見ていてそれでいてメッセージを伝えるということに非常に苦悩しているという印象があります。銀色で感じたのは結局ともさんの表現者としての魅力でしたし、本作もやはりそういう感じです。
褒めてばかりも何なので。ナルキッソス2では生死に関する言葉をいくつも投げかけやりとりをするのですが、逆にそれが目立ち、本来もっとも描きたいことであろう最後の結末が弱く映ってしまいました。一緒に同梱されているナルキッソス(旧ナルキ)では、逆にあっさりしすぎて結末の、その重さがあまり感じられませんでした。
内容的にどうしても、銀色第1章と比べてしまうのですが、シナリオ文の上手さとしては「ナルキ2>旧ナルキ>銀色第1章」で、旧ナルキは銀色っぽさが残ってるんですが、そこいくとナルキ2は文として実にすっきりとしていて読みやすいです(くどくない)。ただ、テーマのわかりやすさとしては銀色第1章が一番かなと思います。*2
つまり。死を前にしての生の存在、苦悩の描写はそれはそれで大切なお話になのですが、ただもし(自分の解釈が正しくて)ラストシーンに主軸があるのだとすれば、余計すぎたと言わざるを得ません。絞りきれないと結局発散してしまいます。メッセージを洗練するためには、それ以外のメッセージをあまり入れてはならないのです。
しかしともさんほどの方が、そこに至らないと考えるのも不自然な話です。そう考えてみれば、焦点を絞らないことにその主軸があったのでしょうか。軸が絞られたお話というのは、結局一言で解説できる話です。人間という動物は、物事を解釈し枠にはめて咀嚼するとそれを忘れる性質があります。だからあえて咀嚼出来ないものを用意したんではないかと思うのです。
さらなる勘ぐりをするならば
『…こうして、わたしの元へと、ルールは委ねられた』
『まだ見ぬ、本来の担い手…』
『きっと、すぐに現われるのだろう』
『きっと、わたしの手を離れても…』
『いつまでも…語り継がれるのだろう…』
だから自分の手から、読んでくれた方へと委ねました。
片岡ともさんの公式BBSでの発言より
以下はかなり勘ぐりです。ルールを物語りやテーマと置き換えると、ともさんはこの手の作品はしばらくの間作らないのではないかとも思えるのです。さもなければ、これ以上のものを作ることは(自身では)不可能と感じているのではないかとも思うのです。これ以上の結論でもいいのかもしれません。
なぜねこねこが解散したのかについも諸説ありますが、こう考えるとすっきりしませんか?
とまあ
なにはともあれ面白かったです。短い作品ですので(しかも無償ですので)よかったらみなさんプレイしてみてください。自分も久しぶりにシナリオでも書いてみようかなぁ、と思った本作でした。*3