2003/12/03(水)ゲーム「月姫」批評


秋葉(あきは)

八年前。志貴が兄でないことを知りながら、本当の兄のように慕っていた。志貴がシキに殺されたとき、自分の命を分け与えることで志貴を蘇生させました。

ここでは(秋葉ルートでは)、秋葉が遠野の血に負けるかどうか、に重点が置かれます。シキは、秋葉を遠野の血に負けさせた仲間にさせようと動きます。最後には、秋葉が狂ってしまったままの生き延びるラストと、志貴が秋葉に命を返すラストがあります。ストーリーの中に、琥珀の目論見などは見えず、シキと志貴の同調は、あくまで「志貴が覗く」という形で現れます。

秋葉を殺すという選択肢もありますが、この選択をとると志貴本人も死んでしまいます。当然と言えば当然です。

翡翠

琥珀の前フリと断言して良い物語構成で、翡翠シナリオなのに翡翠がヒロインであるかどうかは疑わしいところです。翡翠から語られる「琥珀の真実」とでも言うべきお話。

志貴はシキに命を奪われたために動けなくなってしまいます。シキが活発に活動するから志貴が活動できなくなる、と語られています。感応者である翡翠の力(契約すること)により、シキを倒しに向かう志貴ですが、学校で戦っている秋葉は圧倒的にシキより強いので、その行為自体無駄だったと言えるのかも知れません。

琥珀は秋葉の気をわざとそらすことで、秋葉に致命傷を与えようとします。ラストで明かされるのは、ほとんどすべてが琥珀の筋書きである、という事実です。このルートにおいて、秋葉が死に、志貴へ命を供給しているモノがなくなるエンディングも存在しますが、これは翡翠の力で生き延びていると解釈できるでしょう。

シキと志貴は意識が入り込んだりなどの現象が起こり、その中で対話もあります。この物語において、シキは志貴を知りません。どういう人物か全く知らないのです。知らないというより琥珀に騙されていたことになるんですけど。

琥珀

月姫裏ルートの総決算というべき物語です。このルートは、大半の設定をプレイヤーが納得していることを前提に書かれており、不要な説明が最大限省略されています。琥珀の行動原理や想いなど、そういったものはプレイヤーが理解している、その上で主人公志貴にも簡単に気づかせて物語が進みます。

にも関わらず、琥珀がいつどの時点で「遠野への復習劇」をやめたのか、それが明確に語られていません。翡翠エンドで行われたネタ晴らし以上の情報は、ほとんど(期待するほど)出てこないのです。煽られた期待は裏切られたまま。秋葉の想いに応えない志貴、その間に居る琥珀、そんな構図を抱えて物語は終焉を迎えます。

ですが、秋葉はなんで元に戻ったのか、琥珀と志貴を許したのかが、いまいち釈然としません。理由は付けられないことはありませんが、これまた「語られていない」のが不満です。

人物の想いが出てこない

アルクェイドルートでアルクェイドの想いが語られず、シエルルートでアルクェイドの想いが強く語られたように、秋葉の想いは琥珀ルートで強く語られ、琥珀の想いは翡翠ルートで強く語られる。その点において、非常に不可思議な構成をしています。

たしかに、人物がそう易々と自らの想いのたけをぶちまけて「あのとき、そして今、わたしはこう想っているの」なんて面と向かって語る(独白する)ものではありません。わざとらしい独白は、多くの物語に多く存在します。独白しない点においてリアルと言えるかもしれませんが、かと言って描くべきものであることには変わりありません。

本作において想いそのものを語らずに、想いに動かされた人を描いており、想い自体は「他の人の話」と「その行動」から読み取れということなのです。たしかに「好き」「嫌い」など単純ものであるなら、それで十分でしょう。しかし、この月姫の物語はそんな単純ではない。設定においても想いにおいても複雑怪奇なのです。

例えば、琥珀ルート最後の方のシーンで、琥珀が利用していることを志貴が「知っていた」と言ったところで、琥珀は唖然とします。ですが、その唖然はどういう感情によるだったのか「明確」に分かりません。そう言われたとき琥珀がどう想ったのか分からないのです。想像するにしても、琥珀が本当の気持ちを取り戻したシーンが(ほとんど)ないため分かりません。物語である以上、人間は結末を観たいと思います。話の流れとしての結末もそうですが、人の想いとしての結末も観たいのです。

登場人物たちの、物語としてもっとも描くべき気持ちを、月姫という作品は「ことごとく省略」しています。

心情が分からない

実際、多くの人物の心情が分かりません。どういう気持ちので秋葉は志貴を欺いていたのか? 翡翠は何を知りながら、琥珀に対して、秋葉に対して、そして志貴に対して何を想いながら動いたのか、なんで志貴を好いたのか? 琥珀は長年演じていた自分に対して最後にどういう感情をもったのか? 挙げればキリがありません。

また、それ以外に、シナリオごとに登場人物の想いが微妙に異なります。パラレルワールドでマルチシナリオだから、複数の結末であることは納得できます。ですが、そこに出てくる登場人物の想いや心情、行動原理までに違いが出るとプレイヤーは混乱します。もちろん大枠ではズレていません。ですが「なにか違う」ような違和感があります。劇中の台詞で言えば「気づかないような、見逃してしまいそうな小さなズレ」が月姫全体に存在します。

続いては、より具体的な検証を。どうにもこうにも、プロットを遂行するための登場人物という片鱗が見え隠れしているような気がします。

想像できるか、できないか

秋葉は一体どんな想いで「(いざとなったら)私を殺して」と頼んだのか? 殺した時点で主人公も死ぬのですから一体どんな心境だったのでしょう。長いこと苦しみに耐え操り人形と化していた「琥珀」は、リボンを返されたとき何を想ったのか、今での自分とどう決別したのか?吸血鬼狩りしか知らないで行きてきた月の姫君アルクェイドは志貴との出会いで一体何を感じることが出来たのか?

琥珀のことを知りながら、「姉さんには言わないで」と言った翡翠は、一体姉に対してどう想っていたのか?(姉に操り人形で居て欲しいと本気で願ってた?)。なぜ翡翠は、リボンの約束を勘違いされていることを黙っていたのか?琥珀は、志貴が秋葉に勝てる力を持つことを本気で信じていたのか?

まぁとにかくそういうところが一杯あります。もちろん情報不足ではないので、登場人物の状況(シチュエーション)から想像することは出来ます。……があくまで想像です。物語として語られてはいません。ヒントがあるのみ。

結局のところここが焦点なのです。シチュエーションから登場人物の心情をどれだけ明確に想像できるか。これが出来ない人は月姫を完全に楽しむことが出来ません。そして私はその一人であり、多くの人はかなり想像できていたようです(少なくとも多数の感想や批評を読む限りそう判断せざる得ません)。

月姫の登場人物たちは、自分の中から沸き上がる感情、というものをあらわにすることがありません。状況や行動、態度から「あぁ何か変わったんだな」と想像するしかなく、いかなる過去を抱えていたのかは、事実から感情を憶測するしかないのてす。

例えば秋葉の「八年間兄さんが帰ってくるのを、ずっと待っていた」という、言葉は事実以上のことを伝えていません。

「私にとって兄さんは兄さんだけなんです」は感情を伝えてきますが、「私はどんな気持ちで兄さんを……」「一人待ちづづける寂しさ。いつか返ってくる日を……(うんぬん)」とか、そういう表現はほとんど見られないのです。

追い詰められた人間の緊迫感

深い考え、長い経験、想いの強さが決壊するとき、その人間からはとめどない感情が溢れだします。そういうものがないのです。秋葉は、自分を殺してくれ、と冷静に伝えます、琥珀は笑顔で「自分が首謀者」であると笑顔で、そのまま自害します。翡翠エンドで秋葉が死んでも、翡翠は感情を崩しも泣きもしません(琥珀については納得できる面もあるのですが)。

シチュエーションは極限状態を超えていると容易に判断でき、そういう判断や思考になってもおかしくない、と言われれば反論はできません。自らの気持ちはそうそう語るものでもない、と言われればその通りです。しかし、それでも、極限状態での人間のリアルな姿ではないと感じられるのです。人物についての描写不足は否めない。

逆説的に言うならば、月姫が見せたのは虚構であるが故の美しさであり、本物の感情の美しさではないのです。月姫の物語の登場人物が抱える問題はどれも深刻で、どの人物も(翡翠は別か……)もし感情を一度決壊させたならば、「人の弱さが浮き彫りになる」ことは容易に想像が付きます。

以下は仮説です。もしかすると弱さを描く事で物語の美しさに傷がつくことを恐れたのではないでしょうか? または、それを書くことが技術的に不可能(不得意)だったのかも知れませんし、プロットの推敲、プロット上での人間の心理にばかり目が行って、「本物の感情を書くことが出来なかった」とも言えなくはありません。

プロット推敲のための物語

プロット(物語構成)ありき、は明確でしょうが、余りにそれが強すぎるという印象があります。

上に挙げた以外でも、琥珀エンドで、秋葉はいとも簡単に琥珀を殺します。あれだけ、琥珀に対する謝罪の念を持って、琥珀の策略によってなら殺されてもよいと想っていたにも係わらず、あっさりと切って捨てます。

琥珀はなぜ、中庭での会話で「自分がさもリボンの約束の女の子」であることを知らせようとしたのでしょうか? あの時点で「約束」が「リボン」のことだと気づかなかった可能性は低く、リボンのことだと知っていて志貴に気づかせようとしているようにしか取れません(実際はプレイヤーに気づかせたかったのでしょうけど)。もしそこに、「気づいてほしい」という心理が働いたとすれば、「もう無理して笑わなくていいんだ」と言われたときに崩れてしまう可能性は大きい。もちろん「その場は気づいたことを認めたくなくて逃げた」とも言えます。

秋葉が琥珀を殺したこと(実際には殺してないんですが)を、「秋葉は自分から逃げるために、自分が狂ってしまったことにしている」という理論は成り立ちます。ですが、それはすべて机上の計算に過ぎません。「そうだ」って言うなら、まぁそう解釈しても良いでしょう、といった類のものであり、「たしかに、それは実に理に叶ったベストな解釈」とは言えないと思うのです。まぁ矛盾点を内包することを気にしない、keyのようなメーカーもありますからそれはそれで懸命なものでしょう。

しかし、こと月姫に関して言えば、そのような説得力にかけるシチュエーションが多すぎる、ようです。たまたま口が滑って情報が手に入ったり、たまたま離れの部屋を覗いて情報が手に入ったり、と。このとき手に入る情報も、適度に不完全で、適度に嘘が入ったものです。

この嘘の入り具合にも必然性が欠けます。どうしてそのとき、そのキャラクターが「その部分までしか話さなかったのか」に明確な理由がないのです。消極的理由はありますが、そのどれもが積極的理由にはなり得ません。「理由」でなくて「口実」なのです。それは時に、志貴の具合がよくなくなったり、「それ以上は聞きたくない」と志貴自信が止めるものだったりしますが、それについても同じことが言えます。

これらに対する最も説得力のある理由付けは「プロット推敲のための状況であり、人物の行動であり、出来事や事件」になってしまうのです。

綿密なプロット

誤解しないで欲しいのは、些末な問題点を指摘して鬼の首を取った気になっているわけでは、決してない、ということです。上に書いたプロット推敲のための人物というのは、仕方ない面もあるのです。

物語を書いたことのある人にしか分からないかも知れませんが、プロットを綿密に練れば練るほどキャラクターの個性は犠牲になります。キャラクターを個性一杯に自由に動かすと、物語は作者すら予想しない方向に進み収拾が付かなくなります。この2つを完璧に両立することは、(プロであっても)非常に難しいことなのです。

月姫は綿密に練り上げられた、表と裏の伏線が絡むことで一つの作品としての物語を構成しています。そのためには、要所要所で適度に伏線を剥がさなくてはなりません。そのため、ご都合主義が入ってしまうのは仕方ない面でもあるのです。このような計算された物語の魅せ方を重視する限り、この自体はある程度避けられません。というか現状において、かなり上手く避けているのです。プレイヤーとしては気にならないか、気になっても妥協できる範囲です。実際この点を問題点としている人はなかなか見当たりません。

  • 秋葉ほどの力があれば、表シナリオでもシキを倒したのではないか? 倒そうとしたのではないか?
  • 秋葉は琥珀の力で自分を維持していたのならば、秋葉シナリオでも琥珀の力があれば助かったのではないか?
  • 翡翠・琥珀シナリオ以外で、琥珀の策略は本当にちゃんとあったのか?
  • 翡翠シナリオで、翡翠の志貴に対する想いが語られていたか?
  • 翡翠・琥珀シナリオで繰り返し語られていた「遠野の家に来なければよかったのに」という翡翠の台詞の真意は?
  • 琥珀シナリオで、志貴は琥珀に利用されていることに気づく要因がない(プレイヤーは知っている)

結局は、プロットとして欲張り過ぎたことになるのかも知れませんね。物語に落とし込む段階での余裕がプロットに備わっているか、はたまたプロットすら変えてしまうほどの柔軟な物語構築をして欲しかったように感じます。

他の方法はなかったのか?

ある時点で、ヒロイン(展開しているシナリオの中心人物)が、志貴に情報を明かすという選択肢もあったと思うのです。ですが、この場合は kanon の感想で触れたように、「嬉しくない裏情報を一気に公開」なんてことになりかねない危険性もはらんでいますし、他のシナリオで明かされるべき情報まで知ってしまう可能性があります。

別の考え方をすれば、志貴以外の人物が皆「ほとんど同じ情報を共有していて、知らないのは志貴だけ」というシチュエーションに無理があり、それを教えない必然的理由にも無理があります。

志貴以外の人物も持っている情報量についての違いや、嘘を知らされている人物が居る状況を想定しても良かったと思われます。この場合、お話の構築はより複雑で手間のかかるものになります。またプレイヤーも混乱する可能性が否定できませんが、検討する価値はあるかと思います。

まぁもっとも、私としては登場人物がもう少し自分の想いを語ってくれたならば、他のことは無視できるぐらいには感じられたのですが。

月姫の良いところとその他

今更良いところもへったくれもないかも知れませんが、月姫は決して悪い作品ではありません。そして実際に受け入れられています。良くできた作品であることは間違えないのです。

これだけの構造と、これだけの長さの話をよく書いたというのは素直に驚かされます。すごい、と。練り込み、決してエンターテインメントの一線を外さず、狂気の世界とのスレスレをよくも書いたと。そして物語として魅せ方も非常に上手い。

伏線の剥がし方、そして琥珀ルートにおいては、プレイヤーと志貴(主人公)の情報乖離を演出するあたり、なかなか心得てると言えます。表裏一体のシナリオ構成などなど……よく出来ている点は色々ありますが、まぁ良い点を評するのが(私が)苦手だったりするのが困りものです(苦笑)

音楽は……うーん……。もっともっと作品に見合うぐらい上を行って欲しかったと思います。BGMに徹したらしき話がありますが、シナリオに負けず劣らずぐらいに頑張って欲しいものですねぇ。イベントCGについては、Hシーンに十数枚も割いたのは私には分かりませんが、その半分も他のイベント絵に回せなかったのか、と思います。正直なところ、絵は弱いでしょう。反面、立ち絵の方は気に入っているのも事実です。一般的に言う絵の上手さとは別の、表情の豊かさ、が気に入りました。

シナリオライターさんについて

あちこちのレビューや感想で、プロでない人たちによる……云々という話がありましたが、正確には「元プロの人たち」なんて聞いたことあるんですけど、実際どうなんでしょう。最近はほとんど情報が伏せられてますね(某所の過去ログここも)。

さてシナリオライターの奈須きのこさんについて。これまた聞くところによると「痕、雫、京極作品が好き」なんだそうです。京極作品はよく知らないのですが、調べてみると琥珀シナリオにおいて「すべてが琥珀に操られていた」というのは、「絡新婦の理(じょろうぐものことわり)」が元ネタであるようです。どのような物語かは、検索してください。

どうも、本作の「漢字遊び」と言える副題の付け方や、漢字の使い方に対する執着心みたいなものは、これまたノベルズからの影響という話です。残念ながら、ノベルズを余り読まないので断言は出来ませんけど。

奈須きのこさんは、はたしてこういう雫っぽいもの以外が書けるのでしょうか?普通のラブコメ(恋愛ゲーム)とか。最初はぜんぜん書けなそうとか思っていたのですが、こうやって検証してみると、書いたら面白いかも知れません。その前に世界観に走ってしまわれそうな感じもしますけど(^^;;

月姫のもう一つの選択肢

月姫はいわゆるビジュアルノベル(これ自体元は造語)形式をとりましたが、私は、キャラクター(の想い表現)がイマイチ……と感じました。

なぜか? どうすればよかった? を考察するうちに、たどり着いたもう一つの結論が、キャラクターが動いたり、喋ったりすれば違っただろう、ということです。

ゲームだからあり得る表現形態ではありますけど、無理に自分を押さえ込んでいる感じとか、気持ちを押し殺している感じとか、単純な言葉になのにそこに深く詰まっている想いとか、そういった重い言葉が、映像作品だったら伝わったのに、って。

プルプル微妙に震えたり、表情がちょっと引きつったり、であなりがら普通にさらりと言う。無理して言う。無理して笑う。そういうものを、文章以外の部分が補ってくれたのならば……って。実際に、キャラクターの可愛さみたいなものは、随分立ち絵が補ってくれましたが、微妙な心理や変化していく心というものは補ってくれなかった。本来そういうことを描写するのは不向きな方なのかも知れませんね。

まぁ映像まで行かなくても、ちゃんとした演技の声があれば通じたのではないか、とも思います。

「もし音声を付けるなら、声にしかない、台詞の字面にはない情報を演技に乗せないと」とは、私が銀色をプレイしたときに言ったものです。月姫は、それを実現するのに適した作品、であることに気づいたわけです。

そうなったら、それこそ強烈に印象的な傑作……、になったのかなぁ。しかし……

2003/04/04(金)ゲーム「銀色 -silver-」感想

シナリオ関連スタッフ

スタッフ担当
片岡とも一章、五章半分、錆。ディレクター
ヤマタカユウキ二章、五章半分。新人
高嶋栄二三章
ALFRED四章
ぶぐつお手伝い(?)。演出大半=スクリプト書き

プログラム

システムは御存知の方も多いと思いますが、フリーで公開されている NScripter をほぼそのまま使ってます。実際に、最新版の NScripter をコピーして起動すると実行できます(笑)銀色のために特にカスタマイズされた様子もなく、ただのロイヤリティ契約だと思われます(この NScripter って上手いなぁ~なんていつも思うんですよね。同じことしたいなぁとか)

NScripter って、以前から知ってたりもするんですが。システム的には Leaf の 雫、痕 のシステムのバージョンダウン版といった感じです(本音)。分かってる問題としては、回想が上手くいきませんね(恐らくプログラムが銀色のスクリプトのような使われかたを想定していないと思われる)。画面の切り換えもバージョンが少ないですし……(銀色で使われてないだけ?)。ただ、下手なソフトハウスのシステムよりよっぽどマシなのが作れるのですが。

私の(プログラムの)基準って、Leaf の にのまえはじめ(一一)さんや、アリスソフトの WAO さんだからマズいのかも。Leaf の(今もまだここで働いてるかは知りませんが)中尾さん(まじかる☆アンティークなど)も書けるプログラマですね。こういうのと比較すると、まだまだ作りが甘いですね。ここら辺はプログラマでないと分からない領域ですけど(データファイルが簡易なのはわざとかなぁ……。システムの柔軟性の高さはすごいですけど)。

もっとすごいのが、銀色のシステムを管理した人。インストールできる形式を作成した人というべきでしょうか? これはすごい。本当にすごい。NScripter って画像データとかを纏めて1つのファイルにする機能かあるんですが、このとき余計なファイルを一緒に固めてる。シナリオファイルでけならずプログラムまで一緒に入ってるというのはなんともはや……(^^;;

あと、4章の声がやたら少ないなぁ~と思ったらおまけテキスト見ると(以下引用部)、

実は四章のボイスも本当は全部ありました。

…でもやはり容量の関係で入れられなかったのです。…とても残念です(泣)

となってまして。ファイルを直接見ると一部入ってますね。これを読んで「もしや」と思って WAV ファイルを開いて見ると、録音したまま何も加工してない。ADPCM で圧縮するとか、NScripter でそういうファイルが扱えないなら、ある一定レベル以下の音をカットオフするだけで圧縮率が飛躍的に向上するのですけど……。知らないとは恐ろしい……。

ゲームシステム

「映画をみるように楽しんでください」とのことですけど。小さい文字はTV出力してやるときには向きませんでした(違)。映画のように 16対9 のワイド画面で、テキストは字幕を想定してるんですよね。ムード出てたのかなぁ……。元の画像は 640*480(4:3) で描かれてるのだから、普通にそのサイズでよかった気もしますが。同じテキストで、画面表示を変えて比較してみないと分からないところではあります。

ただ横長画面のせいでキャラ絵がみんな斜めになってましたね(立ちキャラ除く)。描く人は大変だったんじゃないかなぁという気もします。あと立ちキャラ、2人立たせてもよかった気がするんですけど。NScripter はそういうこと出来ないんだっけか?画面フェードのパターンが少ないのも、ゲームとしてはもう少し凝ってほしい点ではあります。NScripter には半透明機能(αブレンド機能)もあるのですが、使い方が面倒なせいか(私はそう思う)積極的に使われてる様子はありませんでした。

何度も書いたことですが、一本道のシナリオにほとんど意味を成さない選択肢。批評サイトとかを眺めてると結構書いてありますが、やっぱりゲームじゃないです。でもシナリオを読ませるという意味ではこれでよかったのかも知れませんね。しかし、どう頑張っても声つき紙芝居……なんですよねぇ。中途半端にゲームにしてシナリオを殺す危険性は確かにないのですけど……。

ゲームによっては選択肢が厳しくて、うまく ED が見れないということがありますが、どっちがいんだろうってのは難しい問題のような気がします。シナリオ重視のゲームで、従来のイベント型ゲームのように難易度を設定すると非常にバランスが難しくなりますからね。個人的意見ですが、痕 のようなものを除くとシナリオ選択型というのはその利点を生かせないように思います。その点ゲーム性を捨てた銀色は、選択としてアリでしょう。

音楽

基本的にはよかったです。なんかワンパターンだったり、差し障りない明るい曲が最近ゲームとかで多いのですが(私の気のせい?)、まぁ聴かせる曲を聴いた気がします。でも、もっと頑張ってくれるといいなぁーというのが正直なところ。もっと聴かせる曲を作ってもいいと思いました。曲はいいのに上手く纏めちゃって感じがして、殻というか定番というかをもっとぶち壊して欲しいです。

OP曲、ED曲についてはまぁまぁ。というのは Key や Leaf には負けます。負けます、どころか大敗です。勝ち目なしです。ラストシーンはED曲と共に流れるのですが、ED曲のインパクトや曲の持つ世界観が弱いために少し勿体ない感じがします。酷評するならば形はよい音楽ですが、よくよく聴いてると味が薄い。その味すらも、どこかで聴いたことあるような曲調ばかりで、その点今一歩と言わざる得ません。

3章が一番演技まともだったなぁ~と思ったら、おまけテキストで3章ライターさんが「声優に恵まれた」って書いてました。やっぱな……という感じ。私も(おまけ参照)2章の人の声質が好きなのですけど(逆に5章の声優さんの声質は……)、いかんせん(シナリオが)演技しづらい & 下手というか。あのテキストじゃ演技する方もやる気なるなる可能性はありな気が…… >2章

全体として演技は上手くないです。正直なところ「弱小ソフトハウス(他意なし)の出すゲームの声はこんなもんか」と。どういう意味か書かなくてもわかるでしょうが、金と力の問題です。こればっかりはしょうがないでしょう。個人的には、例え下手でも新人でも演技が好きな人を選んで、ゲームを作るという情熱を理解できる人が居ればいんですけどね(逆に情熱持って作らないと無理ですが)。どっちにしろ金がないと、録音に時間かけられませんから……(以下略)

シナリオ(のメインキャラ)をそのまま録音したようですから、それでも大量の時間がかかったでしょうねぇ~。他サイト見てると「どうせ声を入れるなら全部を」って意見もありましたね。そこまですればより映画みたいになりますね。いいか悪いかは別として。3章の夕奈に声があったらいいなぁと思ったもしましたが、もしあったらそれはそれは……。

えいごモード

本当にすごいゲーム。英語モードですもの。ではこれを英語の Windows で起動して……もダメダメです。メニューとかが使えないわけではなく、英語のテキストが全角文字ですから、シナリオの文字(英語文)が表示できません(笑)

サイト感想とか見てすごく納得したのを少し引用。「なんのために英語モードをつけたのかわかりませんが、ここまでやってくれれば文句はない」私も同感。ここまで無駄なことに、ここまで労力を注ぎ込んでくれるのは本当に素晴らしい。シナリオをいつでも英語に切り換えられたらよかったんですけど、まぁそれは無理な話で(NScripter をそのまま使う限り)。

で、銀色の英訳を、これから英語で食っていこうという友人に読んでもらいました。「意味は通じるけど、文法をがちがちに勉強した人が規約どおりに訳した感じがする」そうです。つまりネイティブな英語ではないと(これは気づいてる人も多いようですけど)。比喩や慣用句なども、本来なら日本語のそれとほぼ同じ意味の英語の慣用句に置き換えるのが適切だろう、というお話でした。自分なら違う風に訳す、と英文を見ながらいってました。但し部分的に(翻訳の)上手い部分もあるそうです。

日本の受験英語の例だということですね。音声については、素人(の私)が聞いても「がんばって喋ってますねぇ」という感じですね。余談ですが、英語モードを付けた理由は「海外では日本のゲームがただのHCG集と見られてるから」だそうです。ただ全角文字の「英字」なので海外では文字化け必須のようです。また海外サイトを軽く検索したところ、時々ひどいの翻訳があってそれが悪い要素となっているみたいなことが書かれていました。

おまけシナリオ

世界観や余韻やらを完全にブチ壊すすごいおまけです。ジョジョネタ×2、ドラクエネタ、White(前作)ネタという構成です。私はドラクエネタが面白かった。ジョジョは知りません。ドラクエネタは BGM や画面まで真似るという気合の入れようで、すげーことしますねぇ~。町の風景もどこかでみたぞーという。

「おまけが面白い」というのはずっと聞いてて、確かに面白かったのですが。けども他のサイトとか見てると「面白くない」という意見もありまして、変な話ですが私も同感ってところがあります。ドラクエネタ含め、内輪すぎたというのはあると思います。ドラクエネタは面白かったと書きましたが、正確には「ぱ*ぷんて」「レベルアップを言ってみた」「PSG風BGM」以外はあんまり面白くなかった。

余韻を壊してしまうのは、確かに勿体ない気もします。もう少し穏やかでも、おまけシナリオを作れたと思うんですけど……。あと、誰にでもわかるネタね……。

シナリオの作られ方

スタッフロールでディレクターとなってるところから恐らく片岡とも氏がメインライターなんだと思いますが。とも氏が全体の構成を作って、キーとなる1章、5章は実際書いてるわけですから。とすると2章、3章というのは銀色からは少し外れた物語になってるわけですね(特に3章ですか。2章は久世家が出てますし)。

1章から4章まで「平安」「鎌倉」「大正」「現代」という流れだそうで。全体のなかで2章、3章に求められたのは何かなぁ~とか考えてみるわけです。思い当たるものって1つで『銀糸の効果』以外の何物でもないわけですね。どっちも使用例。全体を通しての「あやめ」というキーワード、(2、3章の)どちらも生きているわけではありません。

あと決まってたと思われるのは、銀糸の効力は絶対だ……ということでしょうか?1章、4章、5章では願いに大して特に対価を支払った様子はありませんが、2章、3章では大きすぎる対価(引き換え、代償)を支払っています。4章では願いがそのまま不幸なのですけどね……。「あやめ」以外の人が願うとダメだとか……

で、実際にスクリプトに起こしたのは、つまり演出をしたのはぶぐつさんがメインのようですね。片岡とも氏のやった1章5章は除いて……ですが。この二人が全部演出をやったように思われます。個人的にはぶぐつさん頑張れ……という感じだったりするのですが(次項に続く)。

ゲームの作られ方

これも推測なのですけど、片岡ともさんが全体のシナリオ構造を起こした後に、各シナオリライターがスタートして、シナリオが上がってくるにつれCGがスタート。シナリオが完全に上がった頃に録音がスタート。英訳といい、誤植の少なさといい(気付いた誤植はなし)念入りに見直しされてるようにも感じますね。

こう考えてくと、実際のスクリプト書きは大変だったのではないかと思うんですよ。作業的に一番最後になってる。で、1章とか(とも氏の書いたもの)を除くと(シナリオの文章が)演出されること(=ゲームテキストとなること)を考えられてないわけで、それであそこまで頑張ったのは大したものではないかと思えてきます。いやほんと頑張ったと思います。とくにぶぐつさん☆

片岡ともさん以外の脚本は、脚本じゃなくて小説です。テキストを半分抜き出して利用したショートショートを某所で読んだんですけど、『小説』として全く違和感ありませんでした。別に修正とかされてないんですよ。でも違和感ゼロ。ONE から抜き出したゲームテキストがあったので見てみましたが、大半が台詞で話の転がしかたとかも「あっ違うなぁ」と思いました。

演出か? シナリオか?

Key の批評とか読んでると、人によっては「演出が上手すぎるから一度捨てるべき」と言ってる人が居て、あぁなるほどなぁとか思ってました。銀色1章なんかはすごくいい話で、感動した人も結構いるようで、私も好きだったりします。言おうとしてたこと、表現しようとしてたこと……とか私も書いてみたりして。「~のこと」って繰り返しの韻を効果的に使ってますね。

抑えた演出なんて評価もあったけど、ちゃんと演出をしてました。銀色というストーリーに合った演出ですね。これはこれでらしくて良いと思います。ただ個人的にはもっと演出されている方が好きなのですけど。これは5章にも言えますね。文章もやっぱりちゃんとゲームになることをある程度考慮して書かれてましたね。1章だけは……。

ねこねこソフトとしては、どっちがいいのでしょうね?このままシナリオだけで読ませるようにしていくのか、演出も加えていくのか? 私はこのシナリオに綺麗な演出というのを好みますが、実際やってみたらどうなるかは分かりませんね。下手な演出をするとぶち壊す可能性は大ですから(^^;;どっちに進むつもりなのか。非常に興味深いところではあります。

私としては、今後演出屋さんが加わるかどうかのような気がしますけどね。そういう体勢が整うか、整わないか。というのも、現状では、音が先についててシナリオを演出段階で直せないんですよね。下手に切り取ったり台詞変えることができない状態になってますから。ぶぐつさんは大したものだと、いやほんとに。努力を買います。

1章、5章再考

「生きた証が欲しい」とかはやっぱりフリがないね。「あやめ」と命名するシーンはフリがありすぎて、バレバレ。あくまで演出的に考えると……ですけどね。でも表現しようとしてることは、すごくいいなぁ~~と思うんですよ。

「~~のこと」という同じ韻を踏んで、「闇の世界」のシーンを何度も繰り返し入れて、そういうのも考えてるなぁ~という感じです。私特に、前者は好きでしたねぇ~。「~~のこと」。5章にも出てましたけど。画面(シーン)の切り換え方も独特ですね。ちゃんと考えてるなぁ~って感じです(というより他の章は考えてない)。

5章でちょっと気になったのは、「花を見に行こうか」というのが錆の前と後でダブってるんですよね。わざとなのかは不明ですけど、ちょっと疑問でした。ついでに些細なことで、これはどの章ってわけでもないんですけど「この」と書くべきところがいくつも「あの」になってましたね。

これは脱線だけど4章のカウンセラ。居そうで怖いですねぇ~、妙にリアルだったのはもしかして経験あり、なんて思ったりしました。

全ストーリー再考

さんざ言われてることですが、4章は中身が非常に薄いですね。トゥルーエンドで、1~3章の平和な情景が浮かび上がりますが、あれはなんか根拠のないハッピーを見せただけって感じがしますね。夢……なのかな? 演出としてはアリだと思いますけど。

錆の様子を見て、銀糸は2章の神社に奉納されたのか? とか思ったのですけどねぇ。それ以前に1章で使われてるわけで。1章では荷物は運びが襲われて、そのときに落とした朱い銀糸を名なしの女(あやめ)が拾って。で2章で奉納されるときには銀糸になってるわけですけど。3章のペンダントの関連性もなんだろ? って感じですかね。4章は、3章と同じ店と考えられないこともないわけで(こじつけ)。

ちなみに、専門家(笑)に聴いたところ銀は錆びると黒っぽくなるそうです。鉄みたいに赤くはならないそうなので、銀糸が朱くなってたのは錆びたわけでなく染まってただけですね。なぜその色が落ちたのかは謎ですけど。錆びた銀は、熱すると還元できるそうです。空気中とか酸素のあるとこで熱したらダメみたいですけど、まぁ錆びてたなら戻る方法はあるかなぁ……とか。

4章と5章を通して『銀色』という物語は綺麗に閉じていて、見事いう感じですね。ここのところすっきり終わる物語をず~~~っと見てなかったもので(某鍵)、綺麗でした。

 けどすんなり終わったのて、そのまま印象にも残りにくかった感じが。Kanon とかは第3者が想像の余地(もっと言えば2次創作の余地)を残したが……という意見もあるようです。閉じない方が盛り上がる(某*ヴァしかり)。私としては綺麗に閉じてる方が好きです。ただ、余韻を残すということも少し考えたらいいかも?(余韻=謎ではない)

片岡ともさんが一番実力あるような感じ。まとめたりとか。2章のヤマタカユウキさんは、アイデアは最高。ただ技術が……。次に期待します。3章の人はいろんな意味でがんばれー、と(笑)。4章の方は……次がんばれー。今回は薄すぎ(短すぎ)。

そういや2、3章はなくても……って意見もありました。作品という流れというかとしてはあった方がいいかも知れません。いまいちまとまりのなさは否めませんが。私は続けて5つの章をやってませんから(多分私には時間的に無理)。銀色という作品を楽しむためには、一気に最後までやった方がいいでしょうね。2、3章でどぼんと落ちたムードがあると、ラストがより爽快に映るでしょうから。

テーマ性

2章は村人のために死んでいく人間の物語。3章はすれ違う姉妹の物語。それぞれ、そりなにあったと思うんですよテーマは。願いを叶えることの不幸……とかその周辺だと思いますけど。どっちもそうでしょう? 願いが叶うには代償が必要だ……って。

1章は一番強烈で「生きた証が欲しい」=「わたし光ってた」という思い問題を投げかけてます。ちゃんと生きてた……。生きてたってなんだろう、生きるってなんだろう……みたいな。この章は本当に凄かった。

その点4章は代償(という感じのものは)なし。特に感じるものもなし。5章は銀糸の悲劇ではありますけど。ネタ明かし以上に何かあったのかなぁ……という感じもしなくありません。

いい作品であることは間違えありませんが、1章がテーマとして一番良かったんじゃないかって気がします。銀色という作品自体よりも……という意味です。