「わたしのきもち」
たしか3作目です。今読み返すと色々至らない点はありますが、当時のまま掲載しておきます。
わたしのきもち
「残念だけど面白くないよ、やっぱり」
部室の中には二人の生徒が居た。
「そう……」彩は元気なく返した。後ろからも分かるぐらい肩を落としている。
「はい、返すね。もう一回読んでみなよ」
由起子は二枚のコピー用紙を彩に手渡した。紙には文章が縦書きに印刷されている。彩はそれを受け取り黙って読みはじめた。
二人は文芸部に所属している。文芸部は月に一回部誌としてコピー誌を図書館で配布していた。由起子は絵を載せ、彩は短編小説を載せていた。部員は他にも居るが、活動しているのは実質この二人だけだった。
「由起子、やっぱり文章変なのかな。私、好きな作家の本読んで研究したんだよ」
「そんなことないよ。文章は前に比べたら良くなってきたし、これは私のおかげかな」由起子はニコっと笑う。「だけどね、前にも言ったけど……」
由起子の意見はこうだった。彩の文章は一見市販の小説のような感じがする。しかし深く読んでみるとテーマ性、つまり中身がない。文章自体は上達して、キャラの会話も愉快なんだけど、上辺だけ流れて中核になるものが感じられない。
「テーマって言われても難しいよ……」彩は呟いた。
「なんだっていいのよ。今の小説は作者から見てどんな小説なの?」
彩は少し考え、言葉を選ぶようにして「いつもフラれちゃう可愛そうな女の子の小説……かな」と答えた。
「そうだね。私の感想を言わせてもらうと、ちゃんと可愛そうな女の子だったよ」
「ほんと!?」
「喜ぶのは早い。可愛そうだってのは伝わってきたよ。でもねそれだけなんだよ、わかる?」
「それだけって?」
「それだけ。だからどうしたの、可愛そうな女の子が居ました。けどそれがなんなのかぜんぜん分からない。可愛そうだからどうしたの?」
彩は黙っていた。視線を下に、自分の小説に向けている。
「小説を書くことで何を伝えたいの?」
彩は、家に帰るとカバンを机の上に置き、そこから今日見せた原稿を取り出した。原稿を持ったままベッドに大の字に転がる。
私、何を伝えたいんだろう、わからない。小説って伝えたいことがなきゃ書いちゃ
ダメなの? 私は小説を書きたいんだよ。でもそれだけじゃ、書きたいってだけじゃ
ダメなの? 小説ってなんなのよ、誰か私に教えてよ……
翌週には部誌が発行され、表紙を由起子の描いた絵が飾った。机に座りパソコン向かうショートの女の子の絵。
「由起子、この表紙可愛いね」出来たての部誌を手に取り彩が言った。
「よかった。気に入ってもらえたみたいでうれしいよ」
「絵、だったら”可愛い”ってだけでもいいんだね……」彩がうらやましそうに言う。
「そうなの、かな……」
絵の女の子は笑顔ではなく、ちょっぴり考えごとをしていてまたそこが良かった。
「絵が綺麗な人はいくらでも居るよ。でもそういう絵の全部が親しまれるわけじゃないし、絵が綺麗じゃなくてもファンの付く絵はあるんだよ。絵にこもってるんだと思うんだ、描いた人の気持ちが」
「気持ち?」
「そう気持ち。その絵にも私の気持ちがこもってるんだ」由起子は彩を見つめている。
「それがちゃんと出る人のことを絵が上手いって言うんだよ、きっと」
由起子はとてもやさしい目をしていた。小説も同じだよ、彩に由起子の想いが伝わってくる。
「次はさ、自分の素直な、一番素直な自分の気持ちを書いてみなよ。小説になってなくてもいいから、いま一番感じてることをそのまま書いてみるんだよ」
それから数日、彩はいろんなことを考えた。
何を自分が書きたいのか、自分が今思ってることはなんなのか、自分は小説を書くのに向いてないんじゃないか、すべては無駄な努力なんじゃないか、何も言いたいことがない私は小説なんか書いちゃダメなんじゃないか……、と。
中学生の頃、一つの小説を読んだんだ。小説家になろうと頑張る男の子が夢を叶え
るお話だったんだ。一途で、人を楽しませることに一生懸命で、それですごく感動し
て、私も小説を書きはじめたんだ。私も小説の楽しさをもっと多くの人に知ってもら
いたい。私は小説を書きたいんだよ。
彩はベッドから起き上がると、パソコンに向かって新しいファイルに文章を書きはじめた。書いては手を休め、手を休めてはまた文章を書く。机の端にはこの前出来た部誌が置きっぱなしになっていた。表紙を飾る女の子。
「まるで今の私だね」
彩はそっとつぶやく。
翌日、部室で彩は由起子に出来た原稿を手渡した。
「えっもう書いたんだ」
「私、いっしょうけんめい書いたよ。こんなんじゃダメ、かな?」
「早速読んでみるね。えっと、タイトルは……」
わたしのきもち
部室の中には二人の生徒が居た。
「そう……」彩は元気なく返した。後ろからも分かるぐらい肩を落としている。
「はい、返すね。もう一回読んでみなよ」
由起子は二枚のコピー用紙を彩に手渡した。紙には文章が縦書きに印刷されている。彩はそれを受け取り黙って読みはじめた。
二人は文芸部に所属している。文芸部は月に一回部誌としてコピー誌を図書館で配布していた。由起子は絵を載せ、彩は短編小説を載せていた。部員は他にも居るが、活動しているのは実質この二人だけだった。
「由起子、やっぱり文章変なのかな。私、好きな作家の本読んで研究したんだよ」
「そんなことないよ。文章は前に比べたら良くなってきたし、これは私のおかげかな」由起子はニコっと笑う。「だけどね、前にも言ったけど……」
由起子の意見はこうだった。彩の文章は一見市販の小説のような感じがする。しかし深く読んでみるとテーマ性、つまり中身がない。文章自体は上達して、キャラの会話も愉快なんだけど、上辺だけ流れて中核になるものが感じられない。
「テーマって言われても難しいよ……」彩は呟いた。
「なんだっていいのよ。今の小説は作者から見てどんな小説なの?」
彩は少し考え、言葉を選ぶようにして「いつもフラれちゃう可愛そうな女の子の小説……かな」と答えた。
「そうだね。私の感想を言わせてもらうと、ちゃんと可愛そうな女の子だったよ」
「ほんと!?」
「喜ぶのは早い。可愛そうだってのは伝わってきたよ。でもねそれだけなんだよ、わかる?」
「それだけって?」
「それだけ。だからどうしたの、可愛そうな女の子が居ました。けどそれがなんなのかぜんぜん分からない。可愛そうだからどうしたの?」
彩は黙っていた。視線を下に、自分の小説に向けている。
「小説を書くことで何を伝えたいの?」
彩は、家に帰るとカバンを机の上に置き、そこから今日見せた原稿を取り出した。原稿を持ったままベッドに大の字に転がる。
私、何を伝えたいんだろう、わからない。小説って伝えたいことがなきゃ書いちゃ
ダメなの? 私は小説を書きたいんだよ。でもそれだけじゃ、書きたいってだけじゃ
ダメなの? 小説ってなんなのよ、誰か私に教えてよ……
翌週には部誌が発行され、表紙を由起子の描いた絵が飾った。机に座りパソコン向かうショートの女の子の絵。
「由起子、この表紙可愛いね」出来たての部誌を手に取り彩が言った。
「よかった。気に入ってもらえたみたいでうれしいよ」
「絵、だったら”可愛い”ってだけでもいいんだね……」彩がうらやましそうに言う。
「そうなの、かな……」
絵の女の子は笑顔ではなく、ちょっぴり考えごとをしていてまたそこが良かった。
「絵が綺麗な人はいくらでも居るよ。でもそういう絵の全部が親しまれるわけじゃないし、絵が綺麗じゃなくてもファンの付く絵はあるんだよ。絵にこもってるんだと思うんだ、描いた人の気持ちが」
「気持ち?」
「そう気持ち。その絵にも私の気持ちがこもってるんだ」由起子は彩を見つめている。
「それがちゃんと出る人のことを絵が上手いって言うんだよ、きっと」
由起子はとてもやさしい目をしていた。小説も同じだよ、彩に由起子の想いが伝わってくる。
「次はさ、自分の素直な、一番素直な自分の気持ちを書いてみなよ。小説になってなくてもいいから、いま一番感じてることをそのまま書いてみるんだよ」
それから数日、彩はいろんなことを考えた。
何を自分が書きたいのか、自分が今思ってることはなんなのか、自分は小説を書くのに向いてないんじゃないか、すべては無駄な努力なんじゃないか、何も言いたいことがない私は小説なんか書いちゃダメなんじゃないか……、と。
中学生の頃、一つの小説を読んだんだ。小説家になろうと頑張る男の子が夢を叶え
るお話だったんだ。一途で、人を楽しませることに一生懸命で、それですごく感動し
て、私も小説を書きはじめたんだ。私も小説の楽しさをもっと多くの人に知ってもら
いたい。私は小説を書きたいんだよ。
彩はベッドから起き上がると、パソコンに向かって新しいファイルに文章を書きはじめた。書いては手を休め、手を休めてはまた文章を書く。机の端にはこの前出来た部誌が置きっぱなしになっていた。表紙を飾る女の子。
「まるで今の私だね」
彩はそっとつぶやく。
翌日、部室で彩は由起子に出来た原稿を手渡した。
「えっもう書いたんだ」
「私、いっしょうけんめい書いたよ。こんなんじゃダメ、かな?」
「早速読んでみるね。えっと、タイトルは……」
わたしのきもち