2007/07/22(日)ゲーム「ナルキッソス2」感想
ナルキッソス2は、元ねこねこソフトのエライヒト片岡とも氏のサークルステージ☆ななで無償配布されているノベルゲームです。
プレイ感想
元々、知り合いの方が音楽で参加しているということから知ってプレイしてみました。プレイ時間2~3時間ってことでしたので、ちょっとプレイするには良いかなと。 結局5~6時間ぐらいかかったのはいつもどおりでしたが(苦笑)*1
感想としては一言で表すと片岡とも氏色でした。銀色第1章とかと同じく「生と死」を本質的テーマとして、 死に逝くものを描いています。死を目前としたとき人は何を感じるのか、そこを深く掘り下げています。
ゲーム中、非常に多くの投げかけが行われるのですが、それに対する答えは用意されていません。実際問題、どれが正解とは片付けられないものがあり、煮え切らないと言えばそれは正しいのかもしれませんが、でもそこでもないところに本作のテーマはあるような気がします。
プレイしていると、とも氏は実際に死に接したことがあるのではないのかと思えて仕方ありません。少なくとも死に対して深く考えたことがないと、あれだけの言葉は出てこないと思うのです。そんなとも氏が結局何を一番描きたかったのかと考えると、死に逝く者が苦悩の末の辿り着いく場所とその瞬間(瞬間)の大切さなんじゃないかと思います。
気になったところ、細かいこと、キャスト
- エレベーターの音(SE)が電子レンジの音らしく、どうにも気になって仕方なかった。
- フリーで公開できてしまうことに驚きを感じてしまうと共に、一般流通に乗らないことの限界もあるのだなぁーと。
- 背景紙芝居という使い方もアリだなぁーと。
CAST
人物 | キャスト |
---|---|
姫子 | 柳瀬なつみ |
千尋 | 後藤邑子 |
優花 | 岩居由希子 |
セツミ | 綾川りの |
ママ | 田中凉子 |
女の子 | 能登麻美子 |
どうにも岩居さんが(声を覚えているので)気になって気になって。
片岡ともさんについて
生死のテーマもそうなんですが、真摯といいますか愚直といいますか、銀色もそうでしたが好きです。ねこねこ解散にしてもそうなのでしょうけど、いろいろ見ていてそれでいてメッセージを伝えるということに非常に苦悩しているという印象があります。銀色で感じたのは結局ともさんの表現者としての魅力でしたし、本作もやはりそういう感じです。
褒めてばかりも何なので。ナルキッソス2では生死に関する言葉をいくつも投げかけやりとりをするのですが、逆にそれが目立ち、本来もっとも描きたいことであろう最後の結末が弱く映ってしまいました。一緒に同梱されているナルキッソス(旧ナルキ)では、逆にあっさりしすぎて結末の、その重さがあまり感じられませんでした。
内容的にどうしても、銀色第1章と比べてしまうのですが、シナリオ文の上手さとしては「ナルキ2>旧ナルキ>銀色第1章」で、旧ナルキは銀色っぽさが残ってるんですが、そこいくとナルキ2は文として実にすっきりとしていて読みやすいです(くどくない)。ただ、テーマのわかりやすさとしては銀色第1章が一番かなと思います。*2
つまり。死を前にしての生の存在、苦悩の描写はそれはそれで大切なお話になのですが、ただもし(自分の解釈が正しくて)ラストシーンに主軸があるのだとすれば、余計すぎたと言わざるを得ません。絞りきれないと結局発散してしまいます。メッセージを洗練するためには、それ以外のメッセージをあまり入れてはならないのです。
しかしともさんほどの方が、そこに至らないと考えるのも不自然な話です。そう考えてみれば、焦点を絞らないことにその主軸があったのでしょうか。軸が絞られたお話というのは、結局一言で解説できる話です。人間という動物は、物事を解釈し枠にはめて咀嚼するとそれを忘れる性質があります。だからあえて咀嚼出来ないものを用意したんではないかと思うのです。
さらなる勘ぐりをするならば
『…こうして、わたしの元へと、ルールは委ねられた』
『まだ見ぬ、本来の担い手…』
『きっと、すぐに現われるのだろう』
『きっと、わたしの手を離れても…』
『いつまでも…語り継がれるのだろう…』
だから自分の手から、読んでくれた方へと委ねました。
片岡ともさんの公式BBSでの発言より
以下はかなり勘ぐりです。ルールを物語りやテーマと置き換えると、ともさんはこの手の作品はしばらくの間作らないのではないかとも思えるのです。さもなければ、これ以上のものを作ることは(自身では)不可能と感じているのではないかとも思うのです。これ以上の結論でもいいのかもしれません。
なぜねこねこが解散したのかについも諸説ありますが、こう考えるとすっきりしませんか?
とまあ
なにはともあれ面白かったです。短い作品ですので(しかも無償ですので)よかったらみなさんプレイしてみてください。自分も久しぶりにシナリオでも書いてみようかなぁ、と思った本作でした。*3
2007/02/18(日)ゲーム「処女はお姉さまに恋してる」の感想
おと姉感想。
ちびちびプレイしてたんですが、初回完了しました。貴子シナリオでしたが。
台詞回しと声
口語調になるようにものすごく工夫してあります。意味の重複や倒置、文章として不完全な日本語を使ったゲームというのは初めてみた気がします。これは台詞のリアリティでして、その辺をよく抑えてるなーと感心してしまいました。
普通3行に収まらないような長台詞を邪魔になるので途中で2つの台詞に分けてしまうのですが、このゲームでは切っていません。手抜きなのかと思ったら、声優の声を切りたくなかったらしい。私は普通、ゲームをするとき音声が遅すぎると邪魔でどんどんメッセージを送ってしまうのですが、ほとんど全編台詞を聞いてプレイしてました。
演技がうまいのもそうですが、時間と金をかけて録音しています。これだけ贅沢に間を使った声を録音しようとすると、取り直しも増えるし録音する効率も悪く、お金もかかってしまうんですが、そこがすごい気合い入ってるというか。君望とかも声には気合い入っていましたけど、それとはまた趣向の違う気合いの入り方ですね。声を含めムード作りというのを丁寧に行ってるという感じです。
まりあ役の声、テレビアニメとか聞いた覚えがあるような……岩居由希子さんですか、どうりで。他に、紫苑役あたりがうまいなーという感じでした。貴子役もうまいかな(下手な人は居ないんですが、特にうまいなという感じで)。
ムードと世界観
誰が何と言おうとマリみてがあったからこそ通った企画に違いないのですが。最初、単純な二匹目どじょうかと思ったんですが、それは違ったようです。色々踏まえつつも、また違った世界観を丁寧に作り込んでいたと思います。言葉遣いも、過度にお嬢様台詞にすることもなく、丁寧語に適当な古い慣用句を持ってきてムードを出したりとか。
お話
お話の主軸としてお嬢様学校に転校という部分はあるわけですが、そっちがおまけ的要素なん感じがしました。メインは結局、お嬢様学校の中の恋愛模様を丁寧に書いていったという感じの印象が強いですね。すごいそっちの気合いは感じますし描写も丁寧、作者の熱みたいなものも感じます。
一方で、エロゲーであるから主人公と恋愛させなきゃならないのですが、その部分においてなんというか丁寧なんですけど、必然性と物語性の薄さを感じてしまうというか*1。ラストまで、あくまでお嬢様たちの物語なんだという形で、鍵やageみたいな大層なカタルシスを用意することなく終了*2。
これは明らかに好みが別れますね~。
お嬢様学校における女子たち同士の微妙な心の動きの描写を面白いと思う人は面白いだろうし、興味がない人は興味ないだろうなという。そういう意味では「まんまマリ見て」で、マリ見て好きな人は好きだろうけど……という感じかなあ。どちらかと言うと女性向けゲームな気がします。小説マリ見てが好きな人はある程度好きだろうけど、ただ決して恋愛がメインではないのでラブラブな話が好きな人には物足りないかもしれないし、マリ見て1巻や9巻ほど物語性もないのでそこを求める人もまた辛くなるかも。
それに加えて成長物語でもありましたね。そういう意味では青春モノなのかもしれません。
ErogameScapeみてみると、やっぱりそんな感じですね。
主人公の瑞穂
スーパーマンです。いやスーパーレディーでもいいですけど。欠点がまるでない、ヒーロー……じゃない完璧なヒロインです。もう欠点ないよ瑞穂ちゃんという感じで、この辺も徹底しているといえば徹底しているし、逆説的にみれば以下略という感じですね。
奏シナリオ・由香里シナリオ
どちらのシナリオも「どうせご都合的に配置したキャラだから」と大して期待していなかったんですが、どちらもとても良かったです。エンディング(エピローグ)こそ、メイン3キャラに敵わないとは思いますが、それはそれとしてよく出来ていました。
御門まりやシナリオ
幼なじみからの転換や親しいからこそのもどかしさみたいなお話です。がんばって書いている割に、まりやの気持ちというものが余りプレイヤーに伝わってこず、瑞穂ちゃんおなじく「なんで拗ねて居るんだろという?」となってしまったのが勿体なくもあり、ゲーム的にはそれでもいいのかなと感じるところでもあり。
なんていうか瑞穂ちゃんに急接近する女生徒とか、夢を追いかける人または夢を諦めた人という対比対象でも居ればよかったのかも知れませんが……それはそれでおとボクっぽくないか。話自体は好きですが、いかんせん描き切れてない印象。*3
十条紫苑シナリオ
これはよいですねー。最後の収まり的にもおとボクの正当エンディングなんじゃないかと思います。ただ最初にやらない方がいいと思うけど(少なくとも貴子シナリオを先にやりましょう)。ルートが非常に分かりにくく致し方なく攻略サイトをみましたが、第2話の選択肢で奏シナリオに傾かないとダメだったみたいです。
それはもとかくとして、お嬢様のお家柄や許嫁という、言ってみればベタベタな展開なのですが、それでもさほど深くない伏線や構成が*4非常によくて、圭&美智子の二人や、貴子についても描かれた。自分はベタベタな話を丁寧に描いた物って大好きですし。本命シナリオなんじゃないかなー*5。
本編には関係ありませんが、病気で倒れたシーンの直後に「命に別状はない病気」と説明させるあたり、その必要性を多いに実感して苦笑いしてしまいました。
中間感想
まだ全部終えてませんが、お話としての紫苑シナリオ、次いでラブラブ(ツンデレ)を楽しむ貴子シナリオなのかなという感じです。*6
まあでもやっぱり一番違和感を感じるのは、やけに簡単に主人公の瑞穂ちゃんが♂だということをみんなが受け入れているところなんですけどね……まあそこは突っ込むなということなんでしょうけども。完全に女と女の恋愛劇(+でも結婚出来る)としてみる方が話としてはしっくり来ると思います。そこいうと、いっそTS設定な方がしっくりきたのではと思わなくてもないですが、それはそれでゲームの趣旨変わってしまいますしね。
なんというか、プレイヤーとして一番惚れるのは(女性として見たときの)主人公瑞穂ちゃんなんじゃないかと(笑)
その他
一子シナリオ……おまけですね。なくてよかったのではないかと。あと、やっぱり、社会の先生の演技が下手(嘘っぽい)です。
全体として
正直ここまで良いとは思いませんでした。プレイに集中できずあまり印象かよくなかったまりやシナリオもやり直していいかなとも思います。
総じて人の感情を描くのが上手いんですね。とりわけ描写が繊細なわけでも、特に印象的な台詞があるわけでも、大盛りあがりする物語展開があるわけでもなく、「とことん地味でベタ」と言えばそれまでなのですが、そういう地味な感情を丁寧に描いていったなぁという風に感じました。
この手のゲームは恋愛モノだらけなのですが、ここまで愚直に恋愛をきちんと描いたというのは実にめずらしいように感じてなりませんでした。ほかのゲームってほら、恋愛でもなんでもないご都合主義ですから。声の演技もよかったですが、この辺ライターさんと声優さんの熱が入った感じをうけますね。非常に好みです。
商業的には「女子校に転入」というある意味時代の流れにたまたま乗ったということで成功したんだと思います。だから作者曰く「なんで受けたのかよくわからない」というとおり、大半の人は、どうせきちんとプレイしてないで途中で投げ出しているでしょうね。そりゃ大盛りあがりこそしませんけど、とても丁寧できちんといろんな想いが描かれたよい作品だと思いますよ。
声とかシナリオがよかったんで、イベントCG不足や立ち絵の使い回しがやや気になるところではありました。予算と直結するところだったので致し方なかったというところでしょうが。音は音楽は普通に合っていたと思いますし、それよりも効果音がきちんと作ってあってよかったなぁという感じです。プログラム……はかなり重たかったけど。行っている処理にしては重すぎるんじゃないかと思います、はい。レイヤー合成やスクロールなどはもう少し気合い入れて最適化してほしいものです。
総じて、よいお話でした、ええ本当に。単なるエンターテインメントてはなく、想いがほのかに伝わってくるのが好きでした。
2006/04/30(日)ゲーム「ToHeart2 XRATED感想」
最初に
ToHeartの生みの親である高橋龍也さんはすでにLeafにはいないわけで、その辺どうなのかなあと期待と不安を抱きつついざプレイ開始。やってみて最初にまず懐かしい、ひたすら懐かしい。BGM*1が懐かしすぎです。あれから10年近く経つんですね(遠い目)。当時、高校で大流行したのを思い出しました*2。こう言ってはなんですけど、掛け合いとかムードとかちゃんとToHeartしてるなぁと。いやほんとよく研究してます。と詳細は立ち入らずとりあえず攻略キャラ別に。
ノーマルエンド(攻略なし)
3月から5月のGWの修学旅行前まで、2年生などなど、ありとあらゆる模倣に思わず苦笑いしたぐらいですから、初代ToHeartにおいて「僕たち友達だよね」で終わる有名な雅史エンドも模倣してくれるだろうと思ったら案の定、やってくれました。うむ満足です。
柚原 このみ
初代でいうところの神岸あかりに相当する幼なじみキャラ。キャラの造形が狙いすぎ(見た目と声と性格と)なのは別とすればシナリオテーマ的には『幼なじみからの脱却』で、ある意味あかりシナリオの焼き直し。焼き直し……というより2番煎じ。決してシナリオの作りにどこか決定的な欠陥があるわけではないのですが、あかり(のシナリオ)と比較してしまうとあかりシナリオ(by高橋氏)のほうか1枚も2枚も上手という感じです。
向阪 環(こうさか たまき)
ネット界隈でタマ姉(ねえ)タマ姉というのが気になってたんですが、あーなるほど、こりゃまた強烈に魅力的なキャラクターですね。人気でるのも頷けますね。タマ姉は小悪魔的なキャラクターで、いたずらっ娘でおネエさまとまあほんとあるラインにはストレート直球ど真ん中。
なんですけど。シナリオテーマ的にはやはりこのみと同じ「幼なじみからの脱却」になるのかな。しかしどうやって山を作るよーと思ったら、タマ姉を慕っている女子3人組という*3百合百合ですか、そうですか、そう来ましたか(笑) という感じで。まあよく出来たけどよく出来てたなりの普通でした。
十波 由真(となみ ゆま)
マウンテンバイクで突っかかってくる、喧嘩っぱやい。でも本当は、自分の人生を見つけようと必死でもがいてたという、テーマ的にはとっても好きなシナリオです。ただ、シナリオが5月に突入してもいっこうに終わる気配を見せず……一体いつまで続くんだこれは……と、ONEのシナリオを思い出してしまいました。なんかそういう感じの延長戦の繰り返し。
ツインビルの真ん中で、ガラスに挟まれた二人という構図は、WHITE ALBUMの美咲シナリオの、公園の金網越しという、ある意味もっとも象徴的なシーンのオマージュなんだとおもいますけど、でもそれってガラスだと意味ないんだよね。
シナリオ○(やや(かなり)説教くさいかもしれないけど、個人的には好き)、演出もよく頑張ってるんだけどやや(かなり)見当違い。ラストあのなんも中途半端な終わりはないでしょうという感じでした。
ここまでの感想
いやほんとよく研究して作ってるけど、現時点では前作を越えてないというか。下手によく出来て、下手によく似せてあるだけに、初代を知ってるとどうしても差を感じてしまいます。初代(の高橋氏)ならこのシーンはここで切るよなーとか、場面転換だけでこう語るよなーとか、そういう越えられない壁みたいなものをやや感じ中。
初代では、あかりシナリオや委員長シナリオが印象的なんですが、あれの良さってのはシナリオ構成云々よりもテキスト表現を含めた演出の良さってのがあるんですよね。だから内容分かってても再度プレイするとやっぱりいいなぁと思ってしまう。
だとしても、十分面白くはできてると思います。Leafも社員増えて収入がピンチでヤバゲでお金欲しくてメディアミックス前提で作ったとしか思えない続編ですが、いまのところはまあまあではないかと。
小牧 愛佳(こまき まなか)、委員長、いいんちょ
やたら主人公の女性が苦手という部分が強調されていたものの、基本的にはよく出来てて、ラストのサラクシーンもしてやられた感じ。面白かったですね。もっと印象深く演出してもよかったとは思いますが、まあこういうライターさんなのかなぁという感じです。テキストを読んでいても、十波シナリオと同じ人が書いたんだなあってのが分かる感じの、物の見方や考え方みたいなのが出ていました。結構、自分は好きな(近いところがある)タイプですね(苦笑) 同じライターのくさりが気になるなぁ。
十波シナリオ、小牧シナリオ共にいろいろな意味でKeyっぽさ*4は否めませんが、それはそれでいいですねぇ。たださぁ、小牧シナリオのテーマがどう見ても灰羽連盟の劣化コピーと感じたのですけどこじつけ?(汗) 小牧、ちまたでは大人気みたいですけど、個人的には十波シナリオのいいんちょの方が好きですね。「だめだよぉ~。ケンカしちゃだめだよぉ~」とか、いい味出してます。とはいえ、比較的よく出来てると思うんですが。
細かいことですが、他のシナリオではテキストに対して収録されている音声に結構工夫が見られたのに(「……」でも声があるとか)、こと小牧に関してはテキストそのままという感じがしました(特に後半)。勿体なかったです。
あと、PC版追加のHシーン……のために、PS2版の「3時間後」が何事もなく翌日になったり、というかさっきまであんたら妹の心配してたんじゃないのか……という感じで、やる気ないのかもうちょっと追加する場所考えようよという感じでした。
ルーシー・マリア・ミソラ
無茶苦茶とっつきにくい変なキャラ=るーこ(ルーシー)が、一転して親しくなるといい感じになるというシナリオ。自称宇宙人なので、宇宙に返してあげないといけないんですが(苦笑) 突拍子もない(節操がない)というToHeart的な特徴を継いだキャラなのかも。
全体的に演出中心のご都合主義全開の展開。ご都合主義ということに目をつぶれば、話筋は良いと思います。プレイヤーに対する情報の与え方や場面場面での見せ方、話しの流れの構成という意味では(心理面でも事実面でもご都合主義ということを除けば)非常によく出来ていて、その辺は由真/小牧(愛佳)シナリオよりうまい。そういう意味では面白いです。
ですが、その一方で地の文章が非常に浮いています。今までプレイしたこのみ/タマ姉シナリオ(菅宗氏)、由真/小牧シナリオ(枕流氏)は、主人公の見せ方に差があるにしろ文章という意味でそこまで違和感は感じなかったのですが、このるーこシナリオ(担当は三宅章介氏)は主人公としての地の文章が明らかに違うという印象を受けます。ダメ主人公には変わりないのですが、若気の至りだとしても手に負えない感じのダメさ、軽い感じのダメさ、落ち着きがない……とかいう印象です(主人公が)。またキャラを萌えさせる感じの書き込みも苦手なように感じました。
細かいこと。
- ルーシーシナリオに入ると、4月中から別モードに行って帰ってこれなくなります。5月を長引かせる由真/小牧(愛佳)シナリオよりと比べると……どうだろう。移動選択がでない分、こっちのほうがもはやToHeart(のシステム)じゃない気もする。
- もっとコンパクトにまとめてしまってよかったと思う。ToHeart(初代)のマルチみたいに。
- 宇宙人であるという虚構をあの舞台設定で表現して大きなボロを出さなかったのはうまい。
- 全体的にはよいけど、画面のカラー変更とか(青っぽくとか)若干演出過剰。もうちょっと抑えて使って(出し惜しみして)いいと思う。
- あのラストシーンは必要最小限情報で締めくくるというライターの意図は汲むにしろ(このラインは上手い)、今回のToHeart2という舞台ではまったくミスマッチ。
- よく考えると、全体的な演出方向がキャラクターではなく「宇宙人」という設定のライン描写に行ってしまっているので方向違い。
結局のところ、ライターさんがToHeart2のラブコメという世界観に向いてなかったと思われます。……でもさ、三宅さんってメインライターなんだよね。
久寿川ささら
ネットで評判最低のささらです、はい。んー「悪くないじゃん(笑)」。そりゃたしかに、両生類好きみたいな奇をてらいすぎてすぎて失敗したキャラ立てとか、主人公がダメダメすぎていわゆる鬱ゲー並なもどかしさを味わせてくれるとか、宝探しをクライマックスにしておけばいいのに、唐突にささらの両親出してきたとおもったらぼくらの七日間戦争始めちゃったりとか、色々ありますけども、えぇ(笑)
ライターは三宅氏。地の文は相変わらず喋りすぎ(説明しすぎ)で、会話もけっこー説明しすぎな感じな感じでした。ToHeartという世界観には合わないんじゃないかなぁ、とは思いつつも、会社方針として前作ToHeartとキャラ的には縁を切ることとか、違うものをという要求があったみたいですから、そういう意味では一番「違うもの」を「真面目」に作ってるのかもしれないな~と好意的に解釈もできます、はい。
思いつくところを箇条書きにすると。
- テーマ的にもキャラ的にも、すごい真面目に書きすぎた感があって良い人には良いんだけど、ToHeart2をやる人はおそらく求めてなかったんだなろうなぁ。
- そしてその関心のテーマもささら個人の問題に焦点を当てた前半と(宝探しまで)、そうなった原因である環境(両親)に焦点を当てた後半に描写と構成が分散したのが難点。どっちか一本に絞ればよかったかと。
- 話の組み立て方はラノベ作者で有名な乙一流のプロットの作り方を彷彿と……いやまあ基本なんだけども。
- テーマに対して若干、構成・書き込み・演出不足。若干なんだけど描き切れてないよなぁーと感じてしまいました。あと投げっぱなし感も。
- ラストのラストが、まあ恋愛ラブコメでは納得してもらえないかもねぇ(初代の志保みたいに)。
- 色々なキャラ総出演で総まとめ的な狙いなのかもしれず。最後にやるべきシナリオかも
でまあぶっちゃけどうだったのよ? と聞かれれば全体的には好きですよ。ラストもベタですがああいうの好きでして、ええ(苦笑) でも、良かったと言い切れないのがなんとも口惜しいところで、そしてプレイヤーを選ぶというのもまた間違えないところです。結論としては一緒ですね。ToHeart的ラブコメにこのライターさんあまりは向かない。age的ラブコメならたぶんすごい向くと思う*5
というわけで結局いつも通りでした。というか若干飽き気味ですが、この際だから全員クリアかなぁーという義務感でゲーム。何かものすごく間違ってる(笑)
笹森 花梨
ライターはまるいたけし氏。オカルト研究会で宇宙人どうのという、非常にどうでもいいキャラでした。やってみました、やっぱりどうでもいいシナリオでした。山火事食い止めました、チャンチャンってオチはまあたしかに普通だと思いますよ、この手のゲームとしては。
しかして、ここまでプレイしてきて、ここまで普通じゃないキャラがたくさんいると逆に浮くというか物足りないというか(苦笑) どうでも良さではタメを張る初代の志保のPS版ぐらいみせろーぐらー
姫百合 珊瑚/姫百合 瑠璃
百合でした。間違えなく百合でした(終了)。どうみても○学生な絵とか、メイドロボまで出てきて○な展開とか、ある意味ファンサービス旺盛なシナリオでした……が、それはとりあえず置いておいて。
悪くなかったですが、ライターは三宅氏。主人公が変、という感じはありませんでしたが、台詞がやたら饒舌……。シナリオは悪くないんですけど、説明過剰という感じというか、長文独演会しなくても分かるシナリオにしておこうよというツッコミを入れつつ、それにしては序盤~中盤までのシナリオの長さにかなり飽きつつという感じでした。
テーマ的には「盲目的な交友」なのは自分も考えたことありますし、多分よくあるものなんだと思いますが、そこからの脱却……ではなくて「そのままでいいじゃない」ってオチは(ToHeart2という作風的に)いかがなんだろうか、とはおもった。
ぜひ枕流さんに書いてほしかったなぁ、このシナリオ(笑) さもなくば(Keyを辞めた)久弥直樹氏あたりだと強烈な詰め込みが描きそうで、それはそれで想像できて面白い(笑)
2004/10/16(土)同人ゲーム「夏の燈火」感想
佳葉シナリオ
正直なところ、「ここまでのシナリオとは!」と出来の良さにびっくり。短くて、見せ場がたくさんあって、おまけに(過剰に)あざとくなくて、それでもこれだけのものが作れるのかと、しかも同人で……と(流通だけ同人な会社もありますが、こちらは違うでしょう)。
シナリオの読む順番が決まっていて、初回プレイ時は佳葉(かのは)シナリオのルートに入るようになっています。
たしかに感動を謳うだけのとこはあります。人の生死を扱うことから生まれる感動であることは間違えないのですが、よくありがちのパターンとして「死ぬこと」の恐怖や不幸を持ってくるのではなく、違うところを主軸にしたことがあざとく感じさせなかった要因であろうと思います。
テーマとしては『生きることとは何か』。日常の中で、ただ他人に生かされ、ただ惰性で生きるだけではなく、自ら「意志を持って日々を過ごせ」というものだと解釈しましたが、しかし残念なことに描ききれていないように感じました。問題はシナリオの構造です。
シナリオの構造は非常に良くできていて「感動することは間違えない」一方で、そこに添えられたテーマを考えたときやや問題があると感じられます。シナリオ中に「ただ惰性で生きる状況」と「自ら道を切り開いて生きる状況」を対比させる場面が存在しない、シナリオ中の言葉を使うならば「どういう登場人物のどういう状況が道を切り開いて生きる状況」なのか分かりにくい、明確でない、具体的でない。常套手段ではありますが、テーマを描くときに最も有用な手段はコントラスト(対比)です。それが明確見えてこないため、言いたいことは分かるし共感もするけど、実感は沸かないという不可思議な状況を生み出したように感じます。
また、佳葉を Kanon のような手法を用いてキャラゲーとして色付けし、そのため幼少期における「けっこん」という約束(まるで真琴ですか)や「桜硝子」といってアイテムが出てくるのですが、その約束をしたり桜硝子を渡すシーンの作りに唐突さが残り、そのため後々効果的に作用させることができていないように感じます。例えば、桜硝子を渡すためのエピソードであるわらしべ長者の話は「目的そのものが桜硝子を渡すこと」になってしまっています。たまたまそうなってしまった、という状況を設定する場合、エピソード全体は全く無関係なことであるのに、そこで起こった出来事の一つでたまたま桜硝子を渡せていたりした方が、良かったように思います。
シナリオ構造を冷静に見てみると、徹底的に不要なエピソードと冗長性を排除してしまったがために(注釈:これはこれで大切なことです)、フリの出すタイミングがほぼすべてイベントの直前に来てしまっているのが、(他が良いだけに)非常に残念です。
本来、エピソードをずらしつつ互いに重ねることでフリを効果的に構成出来るのですが、本シナリオの場合、全体がほぼ時系列に連動して並んでいるためそういう構成が難しく、結果的に「前フリ → 直後にエピソード」の繰り返しになってしまったのが惜しいとも言えます。最たるものは、主人公を現世に戻す儀式前日のオトメの言動でしょう。あれが数日前だったらなぁ……。
湶シナリオ
シナリオテーマは「万物への尊敬」と「他者との友愛」。湶シナリオなのか? という感じすらする、全体の伏線回収と妖怪対人間という戦いのシナリオです。互いに理解し合えぬ「人間」と「妖怪」の対立構造を主軸に添えて全編描かれるわけです。戦闘シーンの緊迫感は概ね出ており、作りとしてはこちらも決して悪くないです。悪くはないんですけど……ね。
他所(よそ)でも指摘されていることですが、テーマに対する絶対的な書き込み不足がまずあります。これは何もテーマに限ったことではないのですが、分量が足りてない、またはあえてキャラクターやエピソードを掘り下げていない。そのことがまたテーマを分かりにくくしています。
そしてもう一つの難点は、テーマが多すぎて一つに絞られていないことです。それは妖怪の親玉である玉藻前(たまものまえ)が、水鏡神社の前での戦いで人々へ残す『セリフの異様な長さ』にも見て取れます。悪く言えば、ほとんど音楽とムードでねじ込まれた感じすらするこの台詞は、言いたいことが多すぎて主軸がどこなのかよく分かりません。シナリオで描ききれなかった部分を言葉で代用しているため、こうなってしまったのではないでしょうか?
湶シナリオにおいて、泥沼とも思える人間対妖怪の対立軸の終止符、最終的にいかなる結論を提示したいのか全く見えてきません。結局どんな結末を提示したいのか、それか分かるのは本当にラストのラストシーンに至ってからなのです(以下ゲーム本文より引用)。
俺達は、ずっと争っている。それは、互いに損得があったり……思想の違いであったり、生きるためであったりするんだ。そうして、悲しみが生まれてゆく。意志があるものとして、争いはやはり避けられないのだろう……(略)「恨み」……その感情があるため、話し合いで解決するなんてできないこともあるんだ。(略)
俺達のような、力を持たない存在だからこそできることがあるんじゃないだろうか。例えば俺と白児が仲良くなる……俺と、玉藻前が仲良くなる。玉藻前と湶が仲良くなれる。こんな小さいことが集まって。……いつか、俺達は「恨み」から乗り越えることができるんじゃないだろうか。
この言葉の示すテーマは大きく、例えばこれは今起こっている戦争や、過去の戦争が引き起こした対立や軋轢についても何かを提示しているとすら思える。個人的にもとても好きです。ですが、このラストシーンの勿体ないところは主人公一人が勝手にそう想ってるだけだということです。物語の結論ではなく、主人公の極めて個人的な結論に過ぎない。誰一人としてそれに付いてきていないし、賛同していないし、実践もまたしていない。そうなってしまった要因は、やはり、シナリオの構造とテーマが完全に混ざり合っていないことにあります。
例えば、陳腐ですが、主人公が白児を守ったり、その逆だったり、玉藻前と白児を敵視する大勢に対峙して主人公か身を張ったり……と。結局、大枠としての対立軸と個人的な好感(友好)が、(主人公にとって)天秤にかかるような状況設定をしてやるべきだったのではないか思うのです。よくよく考えると、すべて周りに振り回されていて、主人公の関与せざるところですべてが回っているのに、未来論を語られたところで……という感じでしょうか。湶が最後あの状況になって主人公が選択するという場面を見たとき、どうしても正しい方の選択肢を選ぶ説得力(主人公の心情としての説得力)が不足しているように感じてしまったとも言えますね。
しかしながら、大枠の対立軸という設定を用いながら、どちらかがどちらかに対して譲歩する、または突然悟るという(最近のアニメで良く見られるような)チンケなオチがつかなかったことは高く評価したいと思います。
総合感想
何が足りなかったと言えば、一番足りなかったのはそこに居る人たちの『想いの掘り下げ』だと思います。人はエピソードよりも「想い」で感動するのですから。例えば、主人公たちの過去、佳葉の過去、玲司の過去、オトメの過去、玉藻前の過去など、もっと、事実を述べる以上の感情的な掘り下げ、具体的なエピソード描写があってもよかったのではないかと感じます。
もっともこれだけの物が作れる人が気づかないハズがありませんから、おそらくはあえて掘り下げなかったのでしょう。作品全体を重たくせずあくまで娯楽作品に止めたかったのかも知れません。ずしりと重たく後を引く作品もまたそれで良いのですが、作品自体の娯楽性を考えたとき程々にしておく選択もまたあるべきです。最近の流行(内面描写の省略と状況説明の強調による読者共感)でもありますしね。ですが、それだったら違うテーマで良かったのでは、とも感じます。何といいますか、テーマを描きたかったのか、娯楽作品(キャラゲー/萌えゲー)を作りたかったのか、どっち付かずになっている印象があるわけです。
それでも、この作品の凄いところは、そういった想いをほとんど掘り下げることなく、これほどまでに感動させたということでしょう。しかも、さほどあざとくなく、です。
さてその他ですが、音楽が良かったなぁ。どの曲とは挙げませんけどね。ただちょっとBGM全体を「静」と「動」に分けたとき、後者ばかりが目立ったのが少し残念。木は森に隠す物ですが、木を目立たせるときは丘かどこかに植えてほしいなぁという感じです。例えば『湧水』という曲など印象的なシーンで使われるのですが、大盤振る舞いをしないでもっと使うシーンを絞れば、より効果的だったのではという感じがします。まぁあと音楽といえば、余談ですけど、ある作曲者の録音環境が悪いのか、ホワイトノイズがほぼ全曲に載っているのが非常に勿体ない。曲はとても良い物が多いだけに非常に勿体ない。
それと細かいことですが、ガラスにヒビが入るときに、割れる音を使うのはいかがなものかと思いました。あと……、絵に関しては特に感想を述べる能力がないので省略。システムはもっと完成度が高いといいなぁ、という感じです(ミュート中にかすかに音が聞こえるのが残念)。全体的に、制作の中心人物である江本さんの力をまざまざと見せつけられたと付け加えておきます。次回作も期待できるでしょう。
個人的には
私は絵の枚数やら何やらにはこだわる人ではないので、佳葉シナリオをプレイしたあと率直感じたことはただ一つ、『これほどまでに凄い作品が、どうしてもっと話題になっていないのか?』でした。エロゲスケープの評価も80点台ですし。同じシナリオで商業ルートで制作・販売されていたら、どうなったかと想像してしまいますよ、ほんとに。逆に言えば(同人流通だと)『これだけの作品を持ってしても話題性はこの程度になってしまう』ことの方が驚きだったと言えます。
作品として好きですし、テーマも好きですし、シナリオも(作り方も)好きですし、全体的に非常に良くできています。そういう意味で好きで良いと思う作品ですが、破壊力が無いと言えばそうなのかも知れません。ですが、それでも、もっと口コミで広まることを願わずには居られません。ネタバレ全開なので先(プレイ前)にこれを読む人はいないと思いますが、もし居たらぜひ一度やってみてください。損はしないと思います。*1
2003/12/03(水)ゲーム「月姫」批評
- 秋葉(あきは)
- 翡翠
- 琥珀
- 人物の想いが出てこない
- 心情が分からない
- 想像できるか、できないか
- 追い詰められた人間の緊迫感
- プロット推敲のための物語
- 綿密なプロット
- 他の方法はなかったのか?
- 月姫の良いところとその他
- シナリオライターさんについて
- 月姫のもう一つの選択肢
秋葉(あきは)
八年前。志貴が兄でないことを知りながら、本当の兄のように慕っていた。志貴がシキに殺されたとき、自分の命を分け与えることで志貴を蘇生させました。
ここでは(秋葉ルートでは)、秋葉が遠野の血に負けるかどうか、に重点が置かれます。シキは、秋葉を遠野の血に負けさせた仲間にさせようと動きます。最後には、秋葉が狂ってしまったままの生き延びるラストと、志貴が秋葉に命を返すラストがあります。ストーリーの中に、琥珀の目論見などは見えず、シキと志貴の同調は、あくまで「志貴が覗く」という形で現れます。
秋葉を殺すという選択肢もありますが、この選択をとると志貴本人も死んでしまいます。当然と言えば当然です。
翡翠
琥珀の前フリと断言して良い物語構成で、翡翠シナリオなのに翡翠がヒロインであるかどうかは疑わしいところです。翡翠から語られる「琥珀の真実」とでも言うべきお話。
志貴はシキに命を奪われたために動けなくなってしまいます。シキが活発に活動するから志貴が活動できなくなる、と語られています。感応者である翡翠の力(契約すること)により、シキを倒しに向かう志貴ですが、学校で戦っている秋葉は圧倒的にシキより強いので、その行為自体無駄だったと言えるのかも知れません。
琥珀は秋葉の気をわざとそらすことで、秋葉に致命傷を与えようとします。ラストで明かされるのは、ほとんどすべてが琥珀の筋書きである、という事実です。このルートにおいて、秋葉が死に、志貴へ命を供給しているモノがなくなるエンディングも存在しますが、これは翡翠の力で生き延びていると解釈できるでしょう。
シキと志貴は意識が入り込んだりなどの現象が起こり、その中で対話もあります。この物語において、シキは志貴を知りません。どういう人物か全く知らないのです。知らないというより琥珀に騙されていたことになるんですけど。
琥珀
月姫裏ルートの総決算というべき物語です。このルートは、大半の設定をプレイヤーが納得していることを前提に書かれており、不要な説明が最大限省略されています。琥珀の行動原理や想いなど、そういったものはプレイヤーが理解している、その上で主人公志貴にも簡単に気づかせて物語が進みます。
にも関わらず、琥珀がいつどの時点で「遠野への復習劇」をやめたのか、それが明確に語られていません。翡翠エンドで行われたネタ晴らし以上の情報は、ほとんど(期待するほど)出てこないのです。煽られた期待は裏切られたまま。秋葉の想いに応えない志貴、その間に居る琥珀、そんな構図を抱えて物語は終焉を迎えます。
ですが、秋葉はなんで元に戻ったのか、琥珀と志貴を許したのかが、いまいち釈然としません。理由は付けられないことはありませんが、これまた「語られていない」のが不満です。
人物の想いが出てこない
アルクェイドルートでアルクェイドの想いが語られず、シエルルートでアルクェイドの想いが強く語られたように、秋葉の想いは琥珀ルートで強く語られ、琥珀の想いは翡翠ルートで強く語られる。その点において、非常に不可思議な構成をしています。
たしかに、人物がそう易々と自らの想いのたけをぶちまけて「あのとき、そして今、わたしはこう想っているの」なんて面と向かって語る(独白する)ものではありません。わざとらしい独白は、多くの物語に多く存在します。独白しない点においてリアルと言えるかもしれませんが、かと言って描くべきものであることには変わりありません。
本作において想いそのものを語らずに、想いに動かされた人を描いており、想い自体は「他の人の話」と「その行動」から読み取れということなのです。たしかに「好き」「嫌い」など単純ものであるなら、それで十分でしょう。しかし、この月姫の物語はそんな単純ではない。設定においても想いにおいても複雑怪奇なのです。
例えば、琥珀ルート最後の方のシーンで、琥珀が利用していることを志貴が「知っていた」と言ったところで、琥珀は唖然とします。ですが、その唖然はどういう感情によるだったのか「明確」に分かりません。そう言われたとき琥珀がどう想ったのか分からないのです。想像するにしても、琥珀が本当の気持ちを取り戻したシーンが(ほとんど)ないため分かりません。物語である以上、人間は結末を観たいと思います。話の流れとしての結末もそうですが、人の想いとしての結末も観たいのです。
登場人物たちの、物語としてもっとも描くべき気持ちを、月姫という作品は「ことごとく省略」しています。
心情が分からない
実際、多くの人物の心情が分かりません。どういう気持ちので秋葉は志貴を欺いていたのか? 翡翠は何を知りながら、琥珀に対して、秋葉に対して、そして志貴に対して何を想いながら動いたのか、なんで志貴を好いたのか? 琥珀は長年演じていた自分に対して最後にどういう感情をもったのか? 挙げればキリがありません。
また、それ以外に、シナリオごとに登場人物の想いが微妙に異なります。パラレルワールドでマルチシナリオだから、複数の結末であることは納得できます。ですが、そこに出てくる登場人物の想いや心情、行動原理までに違いが出るとプレイヤーは混乱します。もちろん大枠ではズレていません。ですが「なにか違う」ような違和感があります。劇中の台詞で言えば「気づかないような、見逃してしまいそうな小さなズレ」が月姫全体に存在します。
続いては、より具体的な検証を。どうにもこうにも、プロットを遂行するための登場人物という片鱗が見え隠れしているような気がします。
想像できるか、できないか
秋葉は一体どんな想いで「(いざとなったら)私を殺して」と頼んだのか? 殺した時点で主人公も死ぬのですから一体どんな心境だったのでしょう。長いこと苦しみに耐え操り人形と化していた「琥珀」は、リボンを返されたとき何を想ったのか、今での自分とどう決別したのか?吸血鬼狩りしか知らないで行きてきた月の姫君アルクェイドは志貴との出会いで一体何を感じることが出来たのか?
琥珀のことを知りながら、「姉さんには言わないで」と言った翡翠は、一体姉に対してどう想っていたのか?(姉に操り人形で居て欲しいと本気で願ってた?)。なぜ翡翠は、リボンの約束を勘違いされていることを黙っていたのか?琥珀は、志貴が秋葉に勝てる力を持つことを本気で信じていたのか?
まぁとにかくそういうところが一杯あります。もちろん情報不足ではないので、登場人物の状況(シチュエーション)から想像することは出来ます。……があくまで想像です。物語として語られてはいません。ヒントがあるのみ。
結局のところここが焦点なのです。シチュエーションから登場人物の心情をどれだけ明確に想像できるか。これが出来ない人は月姫を完全に楽しむことが出来ません。そして私はその一人であり、多くの人はかなり想像できていたようです(少なくとも多数の感想や批評を読む限りそう判断せざる得ません)。
月姫の登場人物たちは、自分の中から沸き上がる感情、というものをあらわにすることがありません。状況や行動、態度から「あぁ何か変わったんだな」と想像するしかなく、いかなる過去を抱えていたのかは、事実から感情を憶測するしかないのてす。
例えば秋葉の「八年間兄さんが帰ってくるのを、ずっと待っていた」という、言葉は事実以上のことを伝えていません。
「私にとって兄さんは兄さんだけなんです」は感情を伝えてきますが、「私はどんな気持ちで兄さんを……」「一人待ちづづける寂しさ。いつか返ってくる日を……(うんぬん)」とか、そういう表現はほとんど見られないのです。
追い詰められた人間の緊迫感
深い考え、長い経験、想いの強さが決壊するとき、その人間からはとめどない感情が溢れだします。そういうものがないのです。秋葉は、自分を殺してくれ、と冷静に伝えます、琥珀は笑顔で「自分が首謀者」であると笑顔で、そのまま自害します。翡翠エンドで秋葉が死んでも、翡翠は感情を崩しも泣きもしません(琥珀については納得できる面もあるのですが)。
シチュエーションは極限状態を超えていると容易に判断でき、そういう判断や思考になってもおかしくない、と言われれば反論はできません。自らの気持ちはそうそう語るものでもない、と言われればその通りです。しかし、それでも、極限状態での人間のリアルな姿ではないと感じられるのです。人物についての描写不足は否めない。
逆説的に言うならば、月姫が見せたのは虚構であるが故の美しさであり、本物の感情の美しさではないのです。月姫の物語の登場人物が抱える問題はどれも深刻で、どの人物も(翡翠は別か……)もし感情を一度決壊させたならば、「人の弱さが浮き彫りになる」ことは容易に想像が付きます。
以下は仮説です。もしかすると弱さを描く事で物語の美しさに傷がつくことを恐れたのではないでしょうか? または、それを書くことが技術的に不可能(不得意)だったのかも知れませんし、プロットの推敲、プロット上での人間の心理にばかり目が行って、「本物の感情を書くことが出来なかった」とも言えなくはありません。
プロット推敲のための物語
プロット(物語構成)ありき、は明確でしょうが、余りにそれが強すぎるという印象があります。
上に挙げた以外でも、琥珀エンドで、秋葉はいとも簡単に琥珀を殺します。あれだけ、琥珀に対する謝罪の念を持って、琥珀の策略によってなら殺されてもよいと想っていたにも係わらず、あっさりと切って捨てます。
琥珀はなぜ、中庭での会話で「自分がさもリボンの約束の女の子」であることを知らせようとしたのでしょうか? あの時点で「約束」が「リボン」のことだと気づかなかった可能性は低く、リボンのことだと知っていて志貴に気づかせようとしているようにしか取れません(実際はプレイヤーに気づかせたかったのでしょうけど)。もしそこに、「気づいてほしい」という心理が働いたとすれば、「もう無理して笑わなくていいんだ」と言われたときに崩れてしまう可能性は大きい。もちろん「その場は気づいたことを認めたくなくて逃げた」とも言えます。
秋葉が琥珀を殺したこと(実際には殺してないんですが)を、「秋葉は自分から逃げるために、自分が狂ってしまったことにしている」という理論は成り立ちます。ですが、それはすべて机上の計算に過ぎません。「そうだ」って言うなら、まぁそう解釈しても良いでしょう、といった類のものであり、「たしかに、それは実に理に叶ったベストな解釈」とは言えないと思うのです。まぁ矛盾点を内包することを気にしない、keyのようなメーカーもありますからそれはそれで懸命なものでしょう。
しかし、こと月姫に関して言えば、そのような説得力にかけるシチュエーションが多すぎる、ようです。たまたま口が滑って情報が手に入ったり、たまたま離れの部屋を覗いて情報が手に入ったり、と。このとき手に入る情報も、適度に不完全で、適度に嘘が入ったものです。
この嘘の入り具合にも必然性が欠けます。どうしてそのとき、そのキャラクターが「その部分までしか話さなかったのか」に明確な理由がないのです。消極的理由はありますが、そのどれもが積極的理由にはなり得ません。「理由」でなくて「口実」なのです。それは時に、志貴の具合がよくなくなったり、「それ以上は聞きたくない」と志貴自信が止めるものだったりしますが、それについても同じことが言えます。
これらに対する最も説得力のある理由付けは「プロット推敲のための状況であり、人物の行動であり、出来事や事件」になってしまうのです。
綿密なプロット
誤解しないで欲しいのは、些末な問題点を指摘して鬼の首を取った気になっているわけでは、決してない、ということです。上に書いたプロット推敲のための人物というのは、仕方ない面もあるのです。
物語を書いたことのある人にしか分からないかも知れませんが、プロットを綿密に練れば練るほどキャラクターの個性は犠牲になります。キャラクターを個性一杯に自由に動かすと、物語は作者すら予想しない方向に進み収拾が付かなくなります。この2つを完璧に両立することは、(プロであっても)非常に難しいことなのです。
月姫は綿密に練り上げられた、表と裏の伏線が絡むことで一つの作品としての物語を構成しています。そのためには、要所要所で適度に伏線を剥がさなくてはなりません。そのため、ご都合主義が入ってしまうのは仕方ない面でもあるのです。このような計算された物語の魅せ方を重視する限り、この自体はある程度避けられません。というか現状において、かなり上手く避けているのです。プレイヤーとしては気にならないか、気になっても妥協できる範囲です。実際この点を問題点としている人はなかなか見当たりません。
- 秋葉ほどの力があれば、表シナリオでもシキを倒したのではないか? 倒そうとしたのではないか?
- 秋葉は琥珀の力で自分を維持していたのならば、秋葉シナリオでも琥珀の力があれば助かったのではないか?
- 翡翠・琥珀シナリオ以外で、琥珀の策略は本当にちゃんとあったのか?
- 翡翠シナリオで、翡翠の志貴に対する想いが語られていたか?
- 翡翠・琥珀シナリオで繰り返し語られていた「遠野の家に来なければよかったのに」という翡翠の台詞の真意は?
- 琥珀シナリオで、志貴は琥珀に利用されていることに気づく要因がない(プレイヤーは知っている)
結局は、プロットとして欲張り過ぎたことになるのかも知れませんね。物語に落とし込む段階での余裕がプロットに備わっているか、はたまたプロットすら変えてしまうほどの柔軟な物語構築をして欲しかったように感じます。
他の方法はなかったのか?
ある時点で、ヒロイン(展開しているシナリオの中心人物)が、志貴に情報を明かすという選択肢もあったと思うのです。ですが、この場合は kanon の感想で触れたように、「嬉しくない裏情報を一気に公開」なんてことになりかねない危険性もはらんでいますし、他のシナリオで明かされるべき情報まで知ってしまう可能性があります。
別の考え方をすれば、志貴以外の人物が皆「ほとんど同じ情報を共有していて、知らないのは志貴だけ」というシチュエーションに無理があり、それを教えない必然的理由にも無理があります。
志貴以外の人物も持っている情報量についての違いや、嘘を知らされている人物が居る状況を想定しても良かったと思われます。この場合、お話の構築はより複雑で手間のかかるものになります。またプレイヤーも混乱する可能性が否定できませんが、検討する価値はあるかと思います。
まぁもっとも、私としては登場人物がもう少し自分の想いを語ってくれたならば、他のことは無視できるぐらいには感じられたのですが。
月姫の良いところとその他
今更良いところもへったくれもないかも知れませんが、月姫は決して悪い作品ではありません。そして実際に受け入れられています。良くできた作品であることは間違えないのです。
これだけの構造と、これだけの長さの話をよく書いたというのは素直に驚かされます。すごい、と。練り込み、決してエンターテインメントの一線を外さず、狂気の世界とのスレスレをよくも書いたと。そして物語として魅せ方も非常に上手い。
伏線の剥がし方、そして琥珀ルートにおいては、プレイヤーと志貴(主人公)の情報乖離を演出するあたり、なかなか心得てると言えます。表裏一体のシナリオ構成などなど……よく出来ている点は色々ありますが、まぁ良い点を評するのが(私が)苦手だったりするのが困りものです(苦笑)
音楽は……うーん……。もっともっと作品に見合うぐらい上を行って欲しかったと思います。BGMに徹したらしき話がありますが、シナリオに負けず劣らずぐらいに頑張って欲しいものですねぇ。イベントCGについては、Hシーンに十数枚も割いたのは私には分かりませんが、その半分も他のイベント絵に回せなかったのか、と思います。正直なところ、絵は弱いでしょう。反面、立ち絵の方は気に入っているのも事実です。一般的に言う絵の上手さとは別の、表情の豊かさ、が気に入りました。
シナリオライターさんについて
あちこちのレビューや感想で、プロでない人たちによる……云々という話がありましたが、正確には「元プロの人たち」なんて聞いたことあるんですけど、実際どうなんでしょう。最近はほとんど情報が伏せられてますね(某所の過去ログ、ここも)。
さてシナリオライターの奈須きのこさんについて。これまた聞くところによると「痕、雫、京極作品が好き」なんだそうです。京極作品はよく知らないのですが、調べてみると琥珀シナリオにおいて「すべてが琥珀に操られていた」というのは、「絡新婦の理(じょろうぐものことわり)」が元ネタであるようです。どのような物語かは、検索してください。
どうも、本作の「漢字遊び」と言える副題の付け方や、漢字の使い方に対する執着心みたいなものは、これまたノベルズからの影響という話です。残念ながら、ノベルズを余り読まないので断言は出来ませんけど。
奈須きのこさんは、はたしてこういう雫っぽいもの以外が書けるのでしょうか?普通のラブコメ(恋愛ゲーム)とか。最初はぜんぜん書けなそうとか思っていたのですが、こうやって検証してみると、書いたら面白いかも知れません。その前に世界観に走ってしまわれそうな感じもしますけど(^^;;
月姫のもう一つの選択肢
月姫はいわゆるビジュアルノベル(これ自体元は造語)形式をとりましたが、私は、キャラクター(の想い表現)がイマイチ……と感じました。
なぜか? どうすればよかった? を考察するうちに、たどり着いたもう一つの結論が、キャラクターが動いたり、喋ったりすれば違っただろう、ということです。
ゲームだからあり得る表現形態ではありますけど、無理に自分を押さえ込んでいる感じとか、気持ちを押し殺している感じとか、単純な言葉になのにそこに深く詰まっている想いとか、そういった重い言葉が、映像作品だったら伝わったのに、って。
プルプル微妙に震えたり、表情がちょっと引きつったり、であなりがら普通にさらりと言う。無理して言う。無理して笑う。そういうものを、文章以外の部分が補ってくれたのならば……って。実際に、キャラクターの可愛さみたいなものは、随分立ち絵が補ってくれましたが、微妙な心理や変化していく心というものは補ってくれなかった。本来そういうことを描写するのは不向きな方なのかも知れませんね。
まぁ映像まで行かなくても、ちゃんとした演技の声があれば通じたのではないか、とも思います。
「もし音声を付けるなら、声にしかない、台詞の字面にはない情報を演技に乗せないと」とは、私が銀色をプレイしたときに言ったものです。月姫は、それを実現するのに適した作品、であることに気づいたわけです。
そうなったら、それこそ強烈に印象的な傑作……、になったのかなぁ。しかし……